また、メイク前に滞った血液や老廃物を流してくすみやむくみを取る“血流マッサージ”を行うなど、患部のカバーのみならず患者自身が本来持つ美しさを内側から引き出すメイクを提案することも、リハビリメイクの特徴として挙げられる。
これにより患者自身が患部を受容し、生き生きした社会生活を送れるようにすることが最終目標とされ、肌を整えながら患者の心もおだやかに調えていく。
メイクは目的ではなく“手段”なので、「隠して終わり」ではなく、QOLの向上を目指しているのがリハビリメイクと“その他のメイク”の決定的な違いである。
特殊メイクにも利用される「デザインテープ」
リハビリメイクの施術は、たとえばかづきさんのこんな問いかけで始まる。
「かわいいバッグね。そのブランド、今はそんな色があるの? 私が若いころはベージュが人気だったけど」
お気に入りのバッグをほめられた患者さんは、うれしそうに流行のバッグについて話し出し、つられて最近遊びに行った場所の話や家族の話、恋人の話をするすると語り出す。隠したい傷について、ほかに気になることについて、将来したいことについて……とめどなく話す患者さんの言葉にうなずきながら、かづきさんは流れるように「じゃあ、ちょっとメイクしてみようか?」と、彼女を導いた。
かづきさんは透明なテープを取り出して、患者さんの傷跡に貼った。かづきさんと大手テープメーカー・ニチバンとの共同開発で作られた「かづき・デザインテープ」(4620円~)は、リストカット痕や熱傷痕などの凹凸をカバーし、テープの上からメイクもできる。透湿性がよくそのまま入浴しても剥がれず、かぶれにくいのが特徴だ。このテープは一般の方のエイジングケア用に使われるほか、舞台や映画などの特殊メイクにも採用されている。
患者さんが隠したい痕に合わせてこうしたテープを用いたり、あるいはまた別のアプローチをして、オーダーメイドの肌が叶えられていく。
かづきさんがテープの上から患部にスポンジをすべらせ、パフをたたくと見る見る傷跡が消えてナチュラルな肌が現れた。患者さんは感動に目を潤ませ、喜びのため息をついた。
自分でも再現できるよう指導を受け、何度も練習して“自分のもの”にした患者さんは、自信を持ってサロンを後にする。
リハビリメイクを受け、本来の肌色を蘇らせた有梨沙さんの身体を見て、恭子さんは涙が止まらなかったという。
「メイクはもちろんですが、娘はかづき先生の“魔法の言葉”で肩の力が抜けたんです」
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