スキリングの裁判は広く世間の関心を惹きつけたが、金融コメンテーターたちでさえ証拠を把握するのは困難だった。上級役員たちがせまり来る大惨事を株主や金融市場の目から隠すのに用いた、混乱させられるほど複雑な金融の仕組みを解明するには、ずいぶん時間がかかった。世界を牛耳りながら、脆くも崩壊のときを迎えた巨大企業の隠れた活動について、法廷が切りこむに際してとりわけ時間を要した原因としては、特に2つが大きい。
1つは時価会計だ。実際に現金を受け取った結果としてではなく、発生するかどうかわからない将来収入にもとづいて莫大な利益を帳簿に計上できるのだ。もう1つはエンロンが特定目的会社(SPC)に依存していたという事実だ。これらは特別につくられた子会社で、企業本体とは別物だが、これを使うとエンロンは負債を計上せずに大口融資を受けられた。破綻時には、エンロンは3000のSPCを設立していた。
裁判所は何日もかけてこれらのメカニズムを明かそうとした。だがあまり仔細に考えられていなかったのは、これらの――長きにわたって投資家や株主たちをだましてきた――金融操作そのものが問題なのではなくて、それがはるかに根深い病気の単なる一症状にすぎないという可能性だった。実際には、これらはゆっくりと、しかし容赦なく社員22000人をかかえる企業を破滅的な道へと導き、破綻に向かわせた文化の結果でしかなかったのだ。
個別分野の専門知識VS純粋な論理的思考力
1997年に、世界最大にしてもっとも有名な経営コンサルタント会社、マッキンゼーの上級役員3人が『ウォー・フォー・タレント——人材育成競争』という報告書を発表した。そこにはマッキンゼーの哲学のおもな信条が要約されていた。それは、実業界で最終的に成功と失敗を決定づけるのは才能であること、そして個別分野の専門知識よりも純粋な論理的思考能力のほうがはるかに重要だということだ。
「天性のアスリート、もっとも強力な天与の才をそなえた者に賭けること」と、ある役員は著者たちに語っている。「とくにその個別分野に関連した経験がなくても、そのスターたちを一見すると能力以上の地位に昇進させるのをためらってはならない」。実業界での成功には「才能の気がまえ」が必要だと彼らは主張している——。「あらゆる水準においてすぐれた才能を持っているという深く根ざした信条が、競争相手をしのぐのだ」。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら