アメリカの株価上昇はあまり長続きしそうもない FRBの利上げと景気悪化以外のリスクとは?
ECB内部にも問題がある。このほど南欧諸国の長期金利を抑制する政策ツールであるTPI(トランスミッション・プロテクション・インスツルメント。ECBによる、資金調達環境が悪化したユーロ加盟国の債券を購入する制度)の導入が決まったが、この運用に関してはECB内部での意見対立が大きい。
例えばドイツなどは、高インフレを制御する局面では、金利上昇を抑制する対応に反対しているもようだ。ただ、イタリアなど長期金利が上昇している国にとっては、利上げによる景気引き締め効果が大きくなる。さらに南欧諸国の国債の持続可能性への懸念から、銀行のバランスシートへの懸念が高まりかねない。
欧州が無視できないリスク要因に
2010年から深刻化した欧州債務危機は、2012年に当時のマリオ・ドラギECB総裁が「できることはなんでもやる」と明言するとともに、南欧諸国の国債を買い支える枠組みを明確化したことで鎮静化した。
足元では、高インフレによって、欧州債務危機の一因だったECB内部の政策姿勢の相違が再び問題になりつつある。最悪の場合、クリスティーヌ・ラガルド総裁のリーダーシップが発揮されず、ECBの政策への不信感が強まれば、通貨ユーロの持続可能性に対する懸念すら浮上しかねない。
また、為替市場において、ユーロドル相場は、いわゆるパリティ(理論価格)である1ユーロ=1ドルを下回るまで一時ユーロ安が大きく進んだ。確かに6月前半までのユーロ安ドル高は、FRBの利上げ期待がもたらしたとみられる。だがそれ以降は、欧州が内在するリスクの大きさが意識されたことが、ユーロ安を招いているように見える。今後、さらなるユーロ安が進むことで、ECBのインフレ制御が一段と難しくなり、政策当局への不信感が強まるという悪循環に陥りつつあるのかもしれない。
ロシア・ウクライナ情勢は小康状態に入ったように見えるため、これに対する株式市場の関心は現状あまり大きくない。ただ、欧州の政治情勢が不安定化して当局の対応が定まらず、ロシア・ウクライナ情勢がもたらす世界経済への負の影響がヨーロッパ経由で大きくなり、これが株式市場の波乱材料になる展開は無視できないリスクシナリオだろう。
なお、欧州における通貨安は高インフレが問題になる中で「リスクに対する脆弱性」が通貨安要因になっているという意味で、「悪いユーロ安」の側面が大きい。
一方、直近は一服感があるが、ドル円相場でも円安が大きく進み、7月は一時1ドル=140円付近までの円安が進んだ。ただ、2%インフレの物価目標は完全には達成されていない日本においては、日本銀行による金融緩和継続で円安が進むことは望ましい側面が大きい。
(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません。当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)
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