首相就任前からの、さらに首相就任後の岸田氏の言動を振り返ると、安倍氏のいわゆるアベノミクスに「距離を置こう、機会があればアベノミクスを修正しよう」とする意欲があったように思う。
国葬は岸田首相にとって「大チャンス」
しかし、アベノミクスには継承すべきよい面が確かにある。岸田首相には、安倍氏の功績をたたえるべき国葬を機に、アベノミクスの「よい面」を元から評価していたような顔をして「しれっと継承する」ことを期待したい。
当初、首相は「資産所得課税の見直し」と言っていたものが、最近では「資産所得倍増計画」と言い出したくらいなのだから、変わり身は可能だろう。
アベノミクスは、金融緩和、積極財政、成長戦略(規制緩和など)を「三本の矢」とする政策パッケージだった。このうち、金融緩和には一定のプラス効果があったが、財政は二度にわたる消費税率の引き上げなどがあって十分拡張的でなかった。加えて、成長戦略となるべき規制緩和はまだまだ不十分だ。
金融政策は「早すぎる引き締めへの転換」を避けるべきだ。現在の物価上昇は資源などの輸入物価の上昇に端を発するもので、日本人の所得を奪っており、需要が強いことによって発生しているものではない。
日本銀行は先般の金融政策決定会合で、インフレの予想値を2%台に引き上げたが、黒田東彦総裁の言うとおり、当面金融緩和を続けることが適切だ。一方で、円安は日本のビジネスにとって「極めて有利な競争条件」をもたらしており、国内の設備や人に投資する絶好の環境条件だ。
したがって、財政も緊縮の度合いを強めることは不適切だ。こうした金融政策、財政政策をしばらく継続するには、「安倍元首相の路線の継承」が政治的に有力な理由になりうる。
なお、日銀の金融政策にあって、ETF(上場投資信託)の買い入れと、イールド・カーブ・コントロール(YCC)による長期金利の固定には、一面の問題があったように思われるので、近い将来これらを修正することがあってもいいが(当連載の小幡積・慶應義塾大学准教授のYCCの脱却法に関する論考「異常な円安をすぐ止めるにはどうすればいいのか」は興味深かった)、「財政の後押しを伴う金融緩和」の基調はまだ崩すべきではない。少なくとも、十分な賃金上昇を待つべきだろう。
政策ラベルとしての「成長戦略」は誰も反対しないが、有効性のある戦略はなかなか実現しない。岸田氏に残された仕事はこの面で大いにある。
また、アベノミクスは、もっぱらデフレ脱却に目的を絞ったせいか、当初から「分配政策」を欠いた経済政策パッケージであった。中低所得層の所得を増やす、公的な再配分政策を早急に実施すべきだろう。岸田氏のもともとの政策的傾向の中にあった「分配政策への目配り」はよい視点だ。
再来年の自民党総裁選の際に、岸田氏には「私はアベノミクスを発展的に継承した」とひとこと言って胸を張ってもらいたい。天国の安倍氏が微笑んでくれるのではないだろうか。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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