日本が大量輸入する「木質ペレット」に重大な懸念 生産地のアメリカ南部で増える健康被害の声

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ノースカロライナ州のノーサンプトン郡に住むベリンダ・ジョイナー氏は、エンビバが2013年にペレット工場を建設して以降、工場が与えるコミュニティへの影響を心配していた。自宅が工場から約4キロ離れているため、自身は健康被害を意識していないが、「工場が近隣住民の暮らしに悪影響を及ぼしている」と話す。

ジョイナー氏による、工場や周囲を行き来するトラックの騒音が1日中止まないため、睡眠が取れない人がいるほか、粉塵で住民の車や家が汚れたり、鼻水が止まらず花畑で作業できなかったり、酷いケースでは呼吸困難に陥ったりするという話を住民たちから聞くという。

「人より利益が大事にされている気がする」とジョイナー氏。

エンビバには6カ所の住民から苦情

木質ペレット問題に取り組んでいる南部環境法律センター(SELC)のヘザー・ヒラカー弁護士によると、木質ペレットの生産過程で、息切れや吐き気といった症状をもたらす揮発性有機化合物(VOC)や、肺を弱めるPM2.5、発がん性を持つ有害大気汚染物という大気汚染が出る。アメリカには大気汚染量を規制する「大気浄化法」があるが、規制は大気汚染を完全になくすものではない。

「ペレット工場が大気汚染許可証を完全に遵守して操業していても、有害な汚染物質が排出される。どのような汚染であれ、近隣住民の健康に影響を与えることになる」と、ヒラカー弁護士は言う。

廃木材から出る「粉塵」も近隣住民にとって大きな問題だ。粉塵に関する規制はあるが、廃木材にカバーをかけるなど具体的な対策が許可証に示されていない場合が多い、とヒラカー弁護士。「粉塵で、コロナの前でもマスクをつけたりするなど健康や生活の質に影響するという話を住民から聞く」。

2004年に創業したエンビバは、現在10のペレット工場をアメリカ南部に操業している。SELCと協力しているNGO「環境保全プロジェクト(EIP)」によると、これまで少なくとも6カ所で住民から苦情が出ている。

住民の懸念に対応しているかエンビバに質問したところ、広報室からこうコメントがきた。

「当社のすべての工場は、アメリカ連邦および州の規制排出基準の範囲内で操業しており、公衆衛生や環境に対するリスクや問題がないことは、当社の施設の定期的な検査によって証明されている。私たちの事業に関して寄せられた住民の懸念は、社内のチームによって速やかに対処され、軽減される」

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