底堅くなってきた日本株が抱える「中国リスク」 市場は米インフレ指標に対して落ち着いてきた
とはいうものの、「リーマンショックが再来する」などと騒ぐのは行きすぎだ。リーマンショック時は銀行の貸し出し債権が証券化されて、世界中の幅広い投資家にリスク負担がばらまかれた。それに比べて中国の場合は、他国投資家の関与が比較的少なく、国内問題としての側面が大きい。
また、アメリカと中国の国家体制の違いはよくも悪くも存在する。
それでも、たとえ中国国内に影響が限定されたとしても、民間債務の不履行が膨張して中国経済を傷めれば、それが他国の景気にも影を落としうる。
さらにいえば、米中対立も依然深刻なままだ。アメリカのジョー・バイデン大統領は、対中政策では中国の領土的野心を含めた安全保障分野と、中国国内の人権問題に焦点を当て、対中圧力をかけ続けている。
具体的な圧力としては、対象リストに載った中国企業のアメリカ国内での企業活動禁止や、アメリカ企業による対象企業への製品・サービスの販売停止(そうした製品やソフトウエアなどが、中国の軍事開発に転用される恐れがあるため)、アメリカの投資家による一部中国企業の株式保有禁止などだ。
さらには、アメリカの企業のみならず、日本を含めたすべての国の企業に対し、原則として新疆ウイグル自治区で生産された製品をアメリカで販売することを、6月から禁じている。
こうした「中国リスク」が高まると、日本の株式市場では、現時点で中国向け売上高の比率が高い企業の株式を売ろうとの動きが強まることも予想される。
今のところ、筆者が接触している海外投資家の間では、そうしたデータを重視する向きは少ないように感じる。
海外投資家たちの間では「日本企業が中国でのビジネスについて、どんなデータや論拠、経営陣内での分析や議論をもとに、今後のビジネスをどうしていこうと考えているのか、それを経営陣から聞きたい。それによっては、必ずしも現時点で中国向け売上高が多い企業の株を一方的に売ろうとは考えていない」との意見が多い。しかし同時に、「日本企業からは、対中ビジネスに関する今後の経営戦略はあまり聞こえてこない」とも聞く。
日本企業は「対中露リスク」を真剣に考えているか
実は、7月7日付の日本経済新聞によるアンケート(131社の日本企業の社長が対象)の結果は、筆者は「薄々そうだろう」とは思っていたが、衝撃的なものだった。
これによると、全体のうち55.7%の企業が「中国リスクが上昇している」と答えた。ところが、その対応に関して「今後10年で中国ビジネスの比重は」と尋ねられると、「比重を上げる」が17.7%、「現状維持」が33.9%、「比重を下げる」が3.2%、「今は中国ビジネスがないがこれから始める」が0.8%で、合計は55.6%にすぎない。つまり、残りの44.4%は「わからない」との回答だ。
自社の中国向けビジネスを今後どうしていくかは「すべての日本企業がきっと真剣に議論し、検討し終わっているに違いない」と、筆者は心から信じて少しも疑わない。だがこのアンケートの結果では、海外投資家から「日本企業のほぼ半数は何も考えておらず、ただおろおろしているだけではないか」と誤解されても仕方がないだろう。
ちなみに、日本企業がこのような誤解を発信し続けている事項としては、ロシアのウクライナ侵攻後、「ロシアから撤退するかどうか」という点でも同様だ。
アメリカのエール大学による、世界の主要1373社を対象にした調査(6月19日時点)によれば、ロシアからの撤退を決めた企業の比率は、日本は中国に次いで2番目に少ない。また、これとは別に、帝国データバンクも「ロシアからの撤退や事業停止を決めた企業でも、判断理由があいまいなままの事例が多い」としている。これでは、内外投資家に対して経営戦略に関する説明責任を果たせていない。
こうした重要な経営判断事項について、「日本企業には自律的に決断する能力がまったくないのだろう」と誤解されては、海外投資家による日本株買いは活発になりにくいのではないか。えっ、「それは誤解ではなく、真実ではないか」って? それは、まずは読者の判断に委ねたいが、時間の経過とともに、徐々に明らかになっていくかもしれない。
(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら