イギリスの「労働スト」がすごいことになっている インフレで昔風のハードな賃上げ闘争が復活
やかましくて派手なデモには慣れっこのロンドンだが、7月4日に行われたデモはかなり異様だった、黒い法服に身を包み、馬毛のかつらをかぶった法廷弁護士が、裁判所の外でプラカードを振っていたからだ。
生活費が上がり続けているイギリスでは「不満の夏」が近づき、労働争議が拡大。弁護士さえもが賃上げを求めてストライキを行うようになっている。
刑事事件を担当する法廷弁護士が賃上げ闘争に加わる以前から、イギリスでは大規模な労働争議が展開されていた。6月には、鉄道労働者が過去数十年で最大のストライキを決行。国を代表する大手航空会社ブリティッシュ・エアウェイズの従業員、公立学校の教師、医療従事者、郵便局職員もストを予告している。
エネルギー価格の高騰を受けて、物価上昇率は2桁に急接近。税やローンの支払い負担も増していることから、長年見られなかったような強硬な賃上げ要求が繰り広げられるようになっている。
1970年代の悪夢が戻ってくる?
今年の夏は多数のストで国が混乱すると予想される中で浮上しているのが、「1970年代再来」の懸念だ。労働争議が激化した1970年代には、ゴミが収集されずに放置され、遺体の埋葬も進まなくなり、政権は退陣に追い込まれた。
「不穏な状況だ」。イングランド中部にあるノッティンガム大学のスティーヴン・フィールディング教授(政治史)は、現在の社会不安の背後には、度重なるスキャンダルで政府の権威が薄れたことに加え、急激なインフレと、パンデミックの長期的な影響、さらにブレグジット(イギリスのヨーロッパ連合からの離脱)の経済的な悪影響に人々が気づき始めたことがあると話す。
「現在起きていることは、こうした背景事情によるもので、そのすべてと関わっている現政権には重大な脅威となる」