イギリスの「労働スト」がすごいことになっている インフレで昔風のハードな賃上げ闘争が復活
そしてスコットランドでは、警察までもが賃上げ争議の舞台となっている。ストが予告されているわけではないが、定時きっかりに職場を離れるなど、「これまで良心で行っていたことをやめる」という通告がなされた。
ジョンソン氏に批判的な人々は、このインフレはエネルギー価格の高騰やウクライナの戦争という外的な要因が引き起こしたものであり、賃上げがインフレにつながっているわけではないと主張している。賃金上昇率はこれまで、ほぼ常にインフレ率を下回ってきた。インフレに拍車をかけているのは、賃金ではなく企業、という立場だ。
長年の賃金抑制に対する怒りが爆発
さらに、政府が長年にわたって公共セクターで働く人々の賃金を抑え込み、彼らの家計を限界に追いやったために、ここに来て大規模な賃上げ要求が噴出する結果となった、とする批判もある。
各種労働組合の連合組織「労働組合会議(TUC)」のフランシス・オグラディ書記長は、「看護師や介護士は食べていくのに必要な賃金を求めているだけ。それが現在のインフレの原因になっているはずがない」と話す。「インフレの主な原因は、世界的なエネルギー価格の上昇と、パンデミックによるサプライチェーンの混乱だ」
ここで賃上げを認めなければ、支出を抑える動きが広まってイギリスは不況に陥るおそれが出てくる、ともオグラディ氏は指摘する。
「生活費の上昇という危機がとりわけイギリスで厳しいものになっているのは、過去10年にわたって賃金が抑え込まれてきたためだ」。ほとんどの主要先進国では「ここ10年で賃金が上昇したが、イギリスは違った」とオグラディ氏。
前出のフィールディング氏は、1970年代の恐ろしい記憶がイギリスの政治家を苦しめる一方、当時と今とでは大きな違いもあると話す。50年前には労働者の約半数が労働組合に加入していたが、現在の加入率は約23%。戦闘的な労働運動に対する懸念は薄まっているという。
ちなみに、イングランド西部のウィルトシャーでは、駐車違反を取り締まる交通監視員までもがストを予告した。「不満の夏」が本番を迎える中、少なくともドライバーには、ちょっとした慰めとなるかもしれない。
(執筆:Stephen Castle記者)
(C)2022 The New York Times
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