イギリスの「労働スト」がすごいことになっている インフレで昔風のハードな賃上げ闘争が復活

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 そうした見方はボリス・ジョンソン首相を支える人々の間にも広がっているようだ。ブレグジットを熱烈に支持した貴族院のダニエル・ハナン議員はテレグラフ紙の日曜版サンデー・テレグラフに寄稿し、「混沌、すなわち増税とインフレ、ストライキのおぞましい悪循環が始まりイギリスが崩壊していくという感覚」を嘆いた。

以前から逼迫していた公共サービスは、ついに一部で崩壊が始まったようだ。イギリス医師会によると、イングランドでは650万人近い患者が手術の順番待ちとなっており(その多くは膝関節や股関節を人工関節に置き換える手術、または眼科手術だ)、医療システム全体の人手不足は10万人に達している。

パスポートは10週間、運転免許試験は14週間待ち

 パスポートの更新も窓口の処理が追いつかないため、10週間の余裕をもって申請するようにとの案内が出されるようになった。政府によると、運転免許の試験を受けるのにも、平均して14週間待たなければならない状況となっている。

その中でも、イギリスが直面する不穏な状況を最も象徴的に表しているのがストの再来であり、その影響は観光客にも及んでいる。

ロビー団体「旅行観光業研究所(ITT)」のスティーヴン・フロイドマン会長は、イギリスを訪れる観光客の数はパンデミック前を3〜4割下回る水準だと話す。新型コロナウイルスの影響が続いていることなども関係しているが、鉄道ストをはじめとする混乱も「間違いなく原因の1つとなっている」。

各種労働団体からの賃上げ要求が解決する見込みはほとんどない。インフレによって国民の購買力は全国的に低下していっているが、政府は賃上げ抑制の姿勢を崩していない。賃上げが進むとインフレが加速し、それがさらなる賃上げ要求につながる悪循環を懸念しているわけだ。

もっとも、ジョンソン首相は混乱の責任を野党・労働党になすりつけようとしている。労働団体と強く結びついた労働党は、ストを非難することには慎重だ。

ただ、賃上げ要求は中産階級の専門職プロフェッショナルを含む幅広い層から巻き起こっており、現実はジョンソン首相の政治的なストーリーとは矛盾する。

例えば、ストを行っている法廷弁護士は、貧しくて自分で弁護士を雇えない被告人の弁護を政府からの報酬で引き受けている。彼らはその報酬があまりにも低いとして賃上げストを決行したわけだが、こうした法廷弁護士の中に左翼の活動家と形容できるような人物はいない。

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