過酷労働でも月収20万、保育士たちが訴える窮状 月9000円の賃上げでも給与に反映されるかは謎

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それでも苦肉の策で、処遇改善費は人件費以外に流用されないよう内閣府は「処遇改善加算は必ず人件費に使うように」と、縛りをかけてきた。しかし、経営側からは「委託費の弾力運用」の対象となる人件費の本体部分での引き上げを求める声は依然として大きい。そうなれば、賃上げ分が人件費以外に流用される可能性がある。きちんと「賃上げ」に使ってほしい行政と、賃上げ以外に使いたい経営者との綱引きが繰り返される。

このように保育士の賃金を低くさせる制度上、構造上の問題がある。そのため賃上げのために公費を投入しても依然として保育士の賃金は期待されるほどは上がらない。

それに加えて、物価上昇が追い打ちをかける。保育士の人件費は国の「公定価格」で定められ、そのうちどれだけ人件費として使うかは経営者に任されている。前述した恵子さんの園は人件費をきちんとかける経営者だが、それでも限界がある。恵子さんは、先行き不透明な状況に大きな不安を感じている。

「もし給与が横ばいのままで物価が上昇し続けたら、いったい、どうなるのでしょうか」

恵子さんの家庭は、夫の収入も手取り20万円台で、共働きでも家計は厳しい。大学生と高校生の子どもの学費を捻出するのに必死だ。

選挙権を無駄にしないために投票へ

恵子さんは「40代になって体力的にきつい。仕事は好きだが、どっと疲れが出た時にリフレッシュする経済的な余裕があれば」とも思う。

恵子さんの子どもの学費の一部は奨学金で賄っている。これは奨学金という名の借金だ。現在高校生の子が進学すれば、ダブルで学費を捻出しなければならない。文部科学省の調べでは、私立大学への初年度の納入金は2021年度で約136万円。国立大学は数が少なく、入学できるのは一握りだ。遠くに住む親も高齢で、心配は尽きない。

「各党の公約を見ても、本当に実現してくれるとは思えません。けれど、選挙権を無駄にしないために毎回、投票に行っています。議員に選ばれたら不祥事を起こさず、しっかりやってほしい。私たち下々の者が暮らしやすくなるようにしてほしい」

この切実な願いは、候補者に届くのだろうか。国の財産である子どもを育む保育士が守られ、子どもたちの教育に予算を投じられる日本にいつかなりうるのだろうか。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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