過酷労働でも月収20万、保育士たちが訴える窮状 月9000円の賃上げでも給与に反映されるかは謎
委託費はもともと必要な経費が積み上げられて支払われ、8割以上を人件費が占めるため、本来、保育は利益が残るものではない。しかし、安倍政権で「株式会社の参入によって保育の受け皿整備を図る」という方針が打ち出され、委託費の使い道はさらに規制緩和された。すると「保育は儲かる、ビジネスチャンスだ」として捉え、事業拡大や利益を優先させる事業者が参入した。
安倍政権下で待機児童対策が推し進められ、認可保育園は2013年の2万2594カ所から2020年には2万9474カ所に約3割ほど増えた。そのうち営利企業が作る認可保育園は2013年の488カ所から2020年には2850カ所を占めるように。
確かに営利企業の参入は保育園を増やし、待機児童の受け皿整備に一役買ったが、なかには”スピード成長”を遂げて株式を上場する企業も現れ、億円単位で株主配当が行われるほどの利益を上げている。
人件費を抑え、利益を重視する傾向の法人も
東京都内は保育単価が高く、都独自の処遇改善費がつく。処遇改善を満額受けた場合、東京23区では保育士1人に対して年間565万円の人件費が公費から支出される。一方で、東京都が公開する保育園の情報から上場各社の保育士の賃金を調べると、いずれも人件費比率が5割前後と低く、賃金実額も年300万円台にとどまっている。
営利企業だけの問題ではない。社会福祉法人でも人件費を抑えて利益を重視する傾向の法人も出現。その結果、保育士の賃金が低く抑えられるだけでなく、行政が行う監査では、経営者による委託費の私的流用、政党への支出などの会計違反まで見つかっている。
国会だけでなく自治体議会でも何度も「委託費の弾力運用」が起因して保育士の賃金が低くなることが問題視されているが、改善は遅々として進まない。ある自民党議員は「業界団体に票や献金をお願いする立場なので、委託費の弾力運用を厳しくするとは言えない」と明かす。そしてある官僚は「保育される子どものために税金は正しく使われなければならない。けれど業界団体の反発があって、それを与党が支持する。どうしても委託費の弾力運用には手がつけられない」と苦しい胸の内を語った。
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