過酷労働でも月収20万、保育士たちが訴える窮状 月9000円の賃上げでも給与に反映されるかは謎

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都心ではまるで建設ラッシュのように次々に保育園が作られ、若手の保育士を中心に採用された。これまでの筆者の取材からは、利益優先、事業拡大優先という経営方針の下で、保育士が低賃金に長時間労働という過酷な労働環境という現場が散見された。保育士がバーンアウトして辞め、短期間で保育士が入れ替わるという問題が起こった。

長く勤められるか…抱える不安

都内にある大手傘下の保育園で働く佐藤明子さん(仮名、26歳)は、「試用期間の給与は総額で月15万5000円。試用期間が終わると月給は23万円になって年収は315万円になりますが、仕事の内容には見合わない」と話し、長く勤められるか不安を感じている。

大学卒業後に幼稚園で働いたが、人材紹介会社を通じて大手傘下の認可保育園に転職した。配属された保育園は開園したばかり。4~5歳の園児が少なく合同クラスが編成され、明子さんは4~5歳の園児12人の担任になった。そのうち専門的な発達支援が必要と見られる園児が2人、外国籍で日本語が通じない園児が1人。そして、情緒が不安定になりがちな園児が1人いて、すべての子を明子さんが1人で保育することに。

明子さんは「大人の目を増やして丁寧に関わっていかないと、子どもたちが成長できない」と、悩んだ。そして、日々が慌ただしく過ぎていく。0~4歳までは昼寝をするが、就学を控えた5歳児は昼寝をしない。明子さんは給食が終わるとまず4歳児を寝かしつけ、その後で5歳児に文字や数字を書く指導を行う。そして、連絡帳や日誌、おたよりを書くため、明子さんに休憩時間はない。毎月、毎週の保育計画は、4歳児と5歳児それぞれを作らなくてはならず、残業も多い。系列園は増えていくが全体が同じような労働環境で、保育士が次々に辞めていく。

こうした背景の一つには、営利企業の参入を認めた規制緩和政策がある。かつて公共性の高さから認可保育園は自治体と社会福祉法人しか作ることができず、運営費(委託費)は「人件費は人件費に使う」という厳しい使途制限があった。それが2000年、規制緩和で営利企業の参入が認められた。同時に、経営の自由度を図るために委託費の使途制限が緩和され、「委託費の弾力運用」が認められた。これにより、人件費を他に流用できるようになったのだった。

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