過酷労働でも月収20万、保育士たちが訴える窮状 月9000円の賃上げでも給与に反映されるかは謎

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恵子さんの勤める保育園では最近、外国籍の園児が増え、その対応も加わる。親子とも必ずしも十分に日本語が理解できるわけではない。持ち物の連絡だけでも四苦八苦し、恵子さんら保育士は頭を抱える。

外国人労働者の増加は国が後押ししている。その子どもたちが保育園を利用することは容易に想定されるはずだが、行政が専門的に対応するわけではなく、現場の保育士任せになっているのが現状だ。

責任の重さに比べ、保育士全体の賃金水準は低い

恵子さんの職場には社内で作られた労働組合があり、社長は保育士経験が長いことから職員配置は手厚く、休暇がとりやすいなど労働環境が整っている。朝晩のシフトに入ればシフト手当が月3万円つく。残業すればもちろん割増賃金が支払われる。恵子さんは「他の園より給与は高く、働きやすいので会社に対する不満はありません。保育士の仕事はやりがいがあるし、園児は可愛い。けれど、保育士は仕事量も多く、責任は重大です。それを考えると保育士全体の賃金水準は低い」と思えてならない。

安倍晋三政権で待機児童対策が政府の目玉政策となって、保育士の処遇改善が大胆に行われた。国は2013年度から2021年度までの間に保育士1人当たりの賃金分を月額平均で4万4000円アップ。それに加えて国はキャリアに応じた処遇改善を月4万円つけている。さらに東京都などの自治体では独自補助で月4万円前後の処遇改善を上乗せしている。

国が決めた公費から出る賃上げ分は、この10年で保育士1人当たり年に約53万~154万円となる。そのうえ岸田政権は今年2月から月9000円(年換算で10万8000円)の保育士の賃上げを図るが実際、保育士が手にする賃金は少ない。

政府統計でもある内閣府の「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」を見ると、認可保育園で働く常勤の保育士の年間賃金は全国平均で2016年度は年315万円だったが、2019年度は同362万円の約47万円増にとどまり、国や自治体から出ている処遇改善費分ほど上がっていないのが現状だ。

同様に待機児童問題が深刻だった東京23区を見てみよう。2016年度の年360万円から2019年度は381万円と上がったが、約19万円増と上がり幅が小さい。東京都は独自に平均月4万4000円(年換算で52万8000円)の処遇改善を行い、もともと保育単価は23区が最高額。処遇改善費が満額の場合、最高で年565万円の人件費が出ているにもかかわらず、だ。

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