「街歩き as a Service」ゼンリン+長崎の試み 産学官連携の観光アプリ「STLOCAL」の有用性

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そして同年4月、ゼンリンは長崎市内に研究開発拠点を設け、翌2021年7月に長崎市と包括連携協定締結へとつながっていく。

長崎市役所の外観(筆者撮影)

包括連携協定では、「安全・安心な暮らしの実現」についてデジタル防災マップ、「教育環境の充実」では地図で学ぶコンピューターのプログラミング、そして「交流人口の拡大」「快適な移動環境の実現」「デジタル化の推進」という観点から、観光客向けスマートフォンアプリであるSTLOCALが生まれている。STOLOCALは、ゼンリンの独自開発だ。

2021年12月にSTLOCAL専用ホームページを立ち上げ、2022年3月16日にアプリ提供を開始。2022年3月23日には、長崎市の田上富久市長やゼンリンの高山善司社長が出席して、STLOCALのスターティングセレモニーを行っている。

5つのST+LOCAL=STLOCAL

藤尾氏は「STLOCALの目的は2つある」と指摘する。1つは、観光型MaaSでの収益化だ。

一般的な観光型MaaSでは、チケット販売からの手数料収入がMaaS事業者の収益となるが、その額は限定的だ。そのため、ビジネスモデルをさらに広めて、観光体験型の物販などを継続的に行う仕組み作りを進めている。

もう1つが、ゼンリンがこれまで構築してきた「モビリティ・ベースド・ネットワーク」におけるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)の提供についての議論を進めることだ。

鉄道路線、自動車用ネットワーク、歩行者用ネットワークのAPIを統一して、地図と連動することで地図情報サービスを成立させる。そのためには、交通事業者や自動車メーカーからのプローブ情報(実際の走行車両から得られた情報)や地方自治体からの基礎データなどだけではなく、ゼンリンが自主的に構築できるデータの実例が必要だ。

JR長崎駅で見かけたSTLOCALの広告(筆者撮影)

藤尾氏は「ゼンリン自らSTLOCAL事業に積極的に投資し、長崎市からは交通、観光、民泊などの関係者を紹介してもらうなど、さまざまな情報提供を受ける体系にした」と事業の実情に触れた。

ゼンリンでは、地域密着型の「マイクロMaaS」を提唱している。STLOCALというネーミングには、「道(Street)や駅(Station)から散歩(Stroll)し、滞在(Stay)することで、あなただけの旅物語(Story)を、その場所(Local)でつなげたい」という想いが込められている。

桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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