「街歩き as a Service」ゼンリン+長崎の試み 産学官連携の観光アプリ「STLOCAL」の有用性

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さらに、垂直型のエレベーターを乗り継いでグラバー園に。STLOCALで購入したデジタルチケットを見せて入園した。ここでは長崎市内の全景を見ながら、ゆったりとした時間を過ごす。

その後、新地中華街から思案橋へ。福砂屋でカステラ、さらに吉宗(よっそう)で五色寿しなどを買い求めていったんホテルに戻る。

夕暮れとなってから、STLOCALの情報の中で気になっていた「てんじんくん」を見に行った。長崎駅に近い、宝町電停から山側の住宅街を登っていく。

天神町の地域住民向け電動移動機器「てんじんくん」(筆者撮影)

STLOCALによれば、「坂の街、長崎では階段で行き来するしかない高台にも高齢者が暮らしています。そこで2002年(平成14年)に天神町に設置された『てんじんくん』を皮切りに、市内数カ所に住民のための斜面移動機が設置されました」とある。2名定員で、住民が専用カードで利用する仕組みだ。

密集した住宅地であるため、住民の方々の迷惑にならないよう静かに見学した。斜面の一部に設置しているだけで、「てんじんくん」のさらにその先にも急斜面が続いている。「てんじんくん」が設置されている坂をAmazonの箱を抱えた配達員が登ってきていた。

「てんじんくん」が設置されている天神町の坂道(筆者撮影)

地元の皆さんにとっては、坂の暮らしが日常生活であるとはいえ、坂は長崎にとっての大きな社会課題でもあることを痛感した。翌日も、長崎の旅は続いた。

マイクロMaaSの地域専用化 

長崎に行く1週間前、ゼンリンの事業統括本部IoT事業本部・MaaS企画部長の藤尾秀樹氏に、STLOCAL企画の背景について詳しく聞いていた。藤尾氏が強調していたのが、「街歩き・アズ・ア・サービス」(MaaS)という表現だった。

MaaS(マース)といえば、一般的には「モビリティ・アズ・ア・サービス」を指し、公共交通や自家用車などの複合的な移動手段を、IT技術によって円滑に乗り継いだり、決済サービスを行ったりする仕組みを言う。

いわゆる観光型MaaSとしては、伊豆半島周辺や会津若松市などでMaaSアプリが実際に運用されているが、STLOCALの特徴は、地図情報サービス大手のゼンリンが“前のめり”で事業化を進めている点だ。

「自治体・公共Week2022」ゼンリンのブースでの説明パネル(筆者撮影)

そもそも、STLOCALを企画した経緯として、2019年にゼンリンが鉄道事業者などへMaaSに関するさまざまな提案をしてきたことがある。だが、事業性を考慮すると、なかなか具体的なビジネスに結びつかなかったという。

そんなとき、長崎大学でAI(人工知能)を活用した地図の自動生成に関する共同研究が行われ、これをきっかけに長崎県、長崎市、そしてゼンリンでの産学官連携が始まる。2020年3月のことだ。

次ページ2022年3月「STLOCAL」リリース
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