「出生率1.35」手厚い国フィンランドに走った激震 1990年から2014年までは1.7を維持していた

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高齢者のケアを主に担うのは、公共の福祉サービスだ。介護が必要になった場合には、子どもと同居するのではなく、自治体のサービスを利用してできるだけ自立して生活してもらうか、施設を利用することが前提となる。施設は公立、私立、サービス付き高齢者向け住宅などいろいろあるが、いずれも比較的安価な値段で利用できる。

そのため、介護離職もフィンランドではほとんど起きにくい。先日発表されたYLEの調査によると、回答者の半分以上は両親もしくは親戚が高齢で介護が必要になっても、面倒を見るつもりはないと答えている。周りも皆そうなので、親と同居していないことや、直接親のもとに行ってサポートしていないことを責める風潮も感じられない。

ただし、離職してまで介護をするという考えはないフィンランドでも、やはりできるだけのことをしたいと感じている人は多い。親を近くに呼び寄せたり、サービスを受けやすく自分もいざという時にかけつけやすい街中に引っ越してもらったりという話はよく聞く。週末のたびに数百キロ離れた実家へと親の様子を見に行く友人も、私の周りには多い。

子どもの世話に加えて親の介護や心配が重なり、ストレスを感じている人もいる。しかし、それぞれ葛藤はあるものの介護自体は義務ではないので、行政サービスに頼り、できる範囲で老親をサポートしながらも、仕事を続けて自分の役目を果たすというのがフィンランドのやり方なのである。

フィンランドの高齢者介護

そんなフィンランドでも、かつては高齢者になると介護施設に入るのが通例だったが、最近はコスト面の問題や、高齢化の進展により収容人数がいっぱいになってきたことから、通いの介護士のサポートを受けながら、自宅でできるだけ自立して生活するスタイルが推奨されるようになってきた。

一部の自治体では、子どもの里親制度や家庭的保育事業のように、介護士や希望者が自宅で数時間もしくは一時的に高齢者を預かる試みも始まっている。

現在、75歳以上で、自宅で暮らす人たちは91%。24時間サービス付きの介護施設で暮らす人は2018年の段階で7.8%いるが、今後はその割合を7%に抑えて、その分介護士や家族の力を借りて自宅で過ごす人を増やすことを目標としている。

友人の母親も、認知症がかなり進んできているが、介護士やデジタル機器の助けを得ながらひとり暮らしを続けている。本人が希望していても、施設に入る認定を受けるのは簡単ではなくなってきているのが実情だ。

施設であれ通いであれ、介護サービスの質の低下や、介護に携わる人たちの過酷な労働環境などがメディアで取り上げられることも多い。今よりもさらに高齢化率が上がれば、もっとケアや社会福祉関連の増員が必要になる可能性もある。いずれは家族が老親を介護しなければならない日が来るのではないかとも言われている。

ただ、家族に頼るのは最終手段であって、今さら家族に介護を義務づけることは現実的には難しいかもしれない。

フィンランド政府は予防的支援に力を入れること、テクノロジーを積極的に導入することを検討しているが、日本と同様、抜本的な対策はないのが現状だ。

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