「出生率1.35」手厚い国フィンランドに走った激震 1990年から2014年までは1.7を維持していた

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2018~2022年に発表された国連の「世界幸福度ランキング」では、フィンランドは5年連続で1位に輝き、2018年の「移民が感じる幸福度」の項目でも、フィンランドは1位になっている。

私自身も2000~2005年に「外国人」として暮らしていた。当時を振り返ると、手取り足取りという感じで何でも助けられていたわけではないが、突き放されることもなく、心地いい距離感だと感じた。

フィンランド人は、積極的ではなくとも移住者たちと互いをできるだけ理解し合おうとし、国の政策も含めて身の丈にあった数と形で確実にゆっくりと、共生への道を探っている。

移民が増えることは、マイナスでも課題でもなく、人材を大きな資源と考えるこの国にとっては財産であり、豊かさと発展のチャンスをもたらしてくれる─。そんな言葉も、多くの人たちから聞かれる。

ポピュリズム政党の台頭

とはいえ、移民が社会に馴染めないという話や、就職でフィンランド人より明らかに不利な状況にある、といったネガティブな声も聞こえてくるし、極端な反移民・難民の立場で極右的な活動をしている人々が引き起こす嫌な事件もしばしば報じられる。

2015年の総選挙で、当時反EUを掲げていた政党「フィン人党」が第二党になり連立与党に加わったことは、「極右政党が大躍進」と海外でも大きく報道された。

その後、党の分裂などもあったが、同党は2019年の総選挙でも第二党の地位を維持した。連立政権には入らなかったものの、一定の国民の支持は続いている。2021年の地方選挙でも14・5%の得票率を得て、6つの自治体で同党が第一党となった。

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フィン人党は、海外では極右政党、右派ポピュリズムと紹介されているが、その実態はそれらの言葉の意味から少しずれる。EU離脱ではなくEU枠内での国家の権限拡大を求め、経済格差の解消、福祉の充実などを訴えている。

スキルのある移民は歓迎し、難民も一定数の受け入れはよしとするが、多様性や寛容を前面に押し出しているわけではなく、「郷に入っては郷に従え」の厳しい姿勢を取っている。一部の党員からは過激な差別的発言も聞こえてくる。

同党は気候変動対策にも消極的だ。2019年の総選挙では、各党が積極的に温暖化対策や気候変動対策の目標を訴えたのに対し、これらの問題については明言せず、距離を置いたスタンスを保った。

いずれにしても、急激なグローバル化や格差の拡大などにより、反動で内向きになっている人々は少なくないのだろう。また、最近は外国人による犯罪が起きると、フィン人党の支持が一時的に伸びるという現象も起きている。

フランスの「国民連合」(RN)やドイツの「ドイツのための選択肢」(AfD)など、他国の排外主義政党に比べればまだ一線を画しているように見えるが、何かきっかけがあれば勢いが加速したり、鈍化したりと、その盛衰は無視できない。

堀内 都喜子 ライター、翻訳家

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ほりうち ときこ / Tokiko Horiuchi

1974年長野県生まれ。大学卒業後、日本語教師等を経て、フィンランド・ユヴァスキュラ大学大学院に留学。異文化コミュニケーションを学び、修士号を取得。フィンランド系企業に勤務しつつ、フリーライターとしても活動中。

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