「それでも米国株は年内上昇する」と予想するワケ 今の市場はあまりにも悲観的になっていないか

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実際のアメリカの企業業績については、アナリスト予想の平均値では、現時点でもしっかりと増益が見込まれている。S&P500採用銘柄の1株当たり利益は、2022年は前年比10.6%増益の予想だ。

これはさまざまな警戒要因を承知のうえでの、6月17日時点でのアナリストの予想である。しかも、2週間前の6月3日時点での同10.2%増益予想から、わずかではあるが上方修正だ。

今のアメリカ株はついに割安に、悲観は行きすぎ

つまり、市場の悲観論と現場に立脚したアナリストの見解が、逆方向となっている。ちなみに、2023年の増益率予想値は、3日の10.0%増益予想から9.6%に下方修正で、これは筆者の「2022年ではなく、2023年こそ業績に警戒すべき」との見解と同方向に踏み出すものだ。

このように、2022年内については、株式市場の企業業績に対する懸念と、実の企業業績の予想値が逆に向かっている結果、S&P500の予想PER(株価収益率)は先週の平均値で15.7倍まで低下した。2014年以降、この予想PERはおおむね15~17倍で推移し、それを上下にはみ出す場合は市場の行きすぎが示されてきた。

コロナショック後の株価の急速な戻り以降、予想PERは17倍より高い推移が続いてきたが、ついに15~17倍のレンジに戻ったばかりか、そのレンジの中央値である16倍をも下回り、今のアメリカ株は割安だと主張できるだろう。

そもそも、市場における景気や企業収益に対する過度の悲観を引き起こしているのは、主として金融引き締めだ。しかし連銀は、景気を温めも冷やしもしない金利水準である「中立金利」を2.40%だと試算している。

現時点ではその水準を政策金利が超えておらず、短期金利に限って議論すれば、かつてほどではないが、まだ景気を押し上げる作用を持つ低い金利水準だといえる。政策金利が中立金利を明確に超えてくるのは、9月のFOMCあたりからだと予想され、しかも超えてもすぐには大幅に上回るわけではない。

すなわち、景気抑制効果が発生しても、当初は大きなものではない。利上げがそれ以降も持続することにより、2023年に景気と収益が悪化すると懸念するのは妥当だと考えるが、今すぐにでも収益が奈落の底に落ちるかのように不安がるのは行きすぎだ。

日本株も、年内はアメリカ株と概ね並行的に推移し、年末高だと予想する。ただ、これまでのアメリカ株優位で、グローバルな投資家が日本株の保有を相対的にかなり抑えてしまっている。そのため、株価の先行きについて投資家が展望を楽観方向に見直せば、日本株の保有比率を引き上げる余地のほうが大きいだろう。

(当記事は会社四季報オンラインにも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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