それでは今回の決断を、投資家目線ではどう評価すべきだろうか。アメリカの連銀がここまでやってくるからには、資産価格の調整もある程度は腹をくくっているだろう。株式市場はすでに年初から2割程度下げていて、いわゆる弱気相場入りしている。だからといって、彼らは手加減してくれそうにない。「中央銀行とは戦うな」はこの世界の鉄則である。
そうだとしたら、連銀の狙いどおりにインフレが鎮静化するかどうかを見なければならない。幸いなことに、インフレが始まってからまだ1年と少々にすぎない。インフレが怖いのは、人々が物価上昇に慣れてしまうことである。
極端な話、「どうせカネの値打ちは下がるんだから、今のうちにモノに換えておこう」みたいな行動が定着してしまうと、経済活動はどんどん歪んでしまう。それが嫌だからこそ、中央銀行は金融引き締めを急ぐのだ。
今後も「手の付けられないインフレ」は続くのか
それでは、今後も手の付けられないインフレが続くだろうか。そうではあるまい、と筆者は考える。なんとなれば、今回のパウエル議長のミスは次の2点に尽きると思うのだ。
(1) インフレに気づくタイミングが約半年遅れた(ジャクソン・ファイブ)。
(2) テーパリング(量的緩和縮小)はもう少し早く終えるべきであった。住宅価格の高騰が問題になっていたのに、連銀が国債はともかくMBS(住宅担保債権)を買い続けたのはつたなかっただろう。
仮に、完全無欠な神のごとき議長がいたとして、上記2つの間違いもクリアしていたと仮定しよう。その場合のアメリカ経済はどうなっていただろうか。おそらく、以下のようなサプライズは避けられなかったはずである。
- 2月24日からのロシア軍によるウクライナ侵攻により、全世界的なエネルギーと食糧価格の高騰がもたらされたこと。
- 加えて西側諸国による対ロ経済制裁により、サプライチェーンの混乱や海運市況の上昇が発生したこと。
- 「ゼロコロナ政策」にこだわる習近平政権が、4月から5月にかけて上海のロックダウンを行い、中国発の輸出が停滞したこと。
- コロナ明けを喜ぶアメリカの善男善女が、カードのリボ払いまで増やしながら「リベンジ消費」を楽しんでいること。
さすがに、これらは読めないのが当たり前だろう。
中央銀行のあるべき姿は「フォワードルッキング」、つまり先読みということである。神様はすべて先刻ご承知ですぞ、と振る舞いながら市場を導く。それが金融政策の理想の姿である。
ところが現在は「ビハインド・ザ・カーブ」。つまり、後手を踏んでしまった金融政策に対し、市場の信認は低下する。そうなると、同じことをやっていても、効果は薄れてしまう。
とはいうものの、コロナにインフレに戦争に経済制裁まで加わるという今の状況では、予想が外れるのも無理からぬことである。ビハインド・ザ・カーブも当たり前。金融政策は、神ならぬ人間がやっていることなのだ。
謙虚な姿勢の者に運命はほほ笑むものだ。パウエル議長にはそれがあると見る。日銀の場合はどうかって? うーん、それはまた別の機会に取り上げたいものである。
(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)
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