ところがフタを開けてみれば、5月のCPIは今期最高の8.6%の上昇であった。しかもこのデータ、「前年同月比」で表されるところがミソである。
アメリカで物価上昇が始まったのは昨年春から。2021年4月に4.2%というCPIが出たときは、筆者も思わず「二度見」したものだが、「ああ、そうか、2020年4月はコロナが上陸したから低めに出たので、その反動が出たわけね」と勝手に納得したのであった。
昨年の「ジャクソン・ファイブ」は的外れだった
察するにアメリカ連銀も、同じ間違いをやらかしたらしい。そして5月以降も連続して、物価上昇が5%台になっていたのに、FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は「物価上昇は一時的(transitory)」と繰り返したのである。今から思えば、かなり恥ずかしい誤りであった。
それだけではない。パウエル議長は昨年8月のジャクソンホール会合において、物価の先行きに対する楽観論を述べている。その際には、①物価高は一部の商品だけ、②供給制約の問題は時間が解決する、③賃金上昇は見られない、④期待インフレ率の上昇はない、⑤大転換が起きたとみるのは時期尚早、という5つの理由を挙げた。
この5点、今から見れば全部的外れで、いかに状況が読めていなかったかの証拠となっている。ちなみに、市場の一部ではこれを「ジャクソン・ファイブ」と称し、「さすがにセンスが古すぎたか」などと言って内輪受けしていたのだが、今となってはどうでもいいよなあ、そんな話。
話を戻して5月のCPIは、前年5月に5.0%も上がっていた物価が、さらに前年同月比で8.6%も上がった、という点が重大なのだ。おそらくパウエル議長は、このデータを見て覚悟を決めたのだろう。
これではもう、アメリカ経済の「ソフトランディング」は無理かもしれない。一時的な景気減速があったとしても仕方がない。とにかく今はインフレを押さえなければ。幸いにも雇用情勢は強いままだ。そこで0.75%への軌道修正に打って出たのであろう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら