デフォルトのロシア鉄道、遠のく「旅情満点」の旅 鉄道を観光資源にしようとしていた矢先に…

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2020年からは日本航空とANAが揃ってウラジオストクへ就航、S7航空は就航地を羽田へ変更して毎日運航となるはずだったが、こちらはコロナ禍によって運休となっていた。おそらくコロナ禍が収まっても運航再開は遠い先であろう。

忙しい日本人の感覚からすると7泊8日のロシア号乗車は簡単ではない。しかし、極東ロシアに行きやすくなったことから、気軽なロシア鉄道ルートも確立していた。成田からS7航空を利用すれば、往路ウラジオストク、復路ハバロフスクからといったルートが可能だったが、ウラジオストク-ハバロフスク間には夜行列車「オケアン号」が毎日運行している。食堂車でロシア料理を味わいながらの寝台車の旅が楽しめたのである。

ちなみに「オケアン」は英語の「オーシャン」と同じ意味である。ロシアは国土が果てしなく広いものの、泳げるような海にはあまり接していない。この列車は内陸の地から海へ行こうという意味が込められている。

欧州各国への国際列車も運行停止

一方、ヨーロッパ側のロシア、ベラルーシとポーランド、ハンガリーなどを結ぶ列車は運行停止になっている。もちろんロシアーウクライナ間もであるが。ロシアを発着する国際列車で最も頻度が高く、利用者が多かったのがサンクトペテルブルク-ヘルシンキ間の「アレグロ」だ。ロシア発着国際列車唯一の昼行高速列車で、イタリア製の電車で運行。1日4往復あったので、ヘルシンキからサンクトペテルブルク日帰りさえ可能であった。しかし、ロシアへの経済制裁の影響で3月28日から運行停止に追い込まれている。

バルト三国への列車も運行停止になり、ロシアの飛び地であるカリーニングラードへの列車は運行しているものの、ロシア人はロシア領内以外での下車ができないという処置で運行しているという。

その他のヨーロッパへの列車はポーランド、ハンガリーなどへ寝台車のみが広軌から標準軌の台車へ履き替えて運行していたが、ロシアの列車のヨーロッパ乗り入れは行われなくなってしまった。

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その昔はパリまでロシアの客車が直通、夏季はアムステルダムまで直通していた時代があるが、現在は毎日運行だったベラルーシを経由するワルシャワへの夜行列車さえも運行停止になった。ロシアからウクライナ、ハンガリーを経て旧ユーゴスラビアのなかでは親ロシア派の国であるセルビアのベオグラードを結ぶ列車もあったのだが、現在では経由するウクライナが国際列車運行どころではなくなってしまった。

かつて、東西冷戦時はソ連はじめ、現在の中欧地域(当時の東欧地域)の国へ行くのでさえビザが必要で、さらにソ連を旅行するには、ソ連の国営旅行社を通じて、国内移動や宿泊施設などを手配、滞在中の日程をすべて事前に決めないとビザが取得できなかった。そして、外国人が宿泊できるホテルなども限られていたので、西欧に比べて旅行代金も高額になったのである。

 しかし、それでもモスクワやレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)などへ観光で訪れる旅行者は少なくなかった。旅行先としてそれだけの魅力があったのである。

そして現在、「冷戦時に逆戻り」などと報道されているが、私は現在のウクライナ侵攻が終わったとしても、かつてのような交流が戻るにはかなりの時間を要するのではないかと思っている。そう考えると旅行需要でいえば「逆戻り」どころではなく、限りなく「後退」させてしまったと思う。

早期に戦争が終結し、和平への道筋を模索し、再び外国人が気持ちよく利用できるロシア鉄道が戻ってくることを切に願うばかりである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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