誰も本心では信じていない民意に全てを委ねる訳 「国民の意思」がデモクラシーを崩壊させる

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どう見ても恣意的というほかない。「民意」の便利使いである。自民党も立憲民主党も確かに議席は減らしたものの、その意味はまったく違っていた。共産党との共闘を企図した立民は、明らかに敗北した。自民の議席減は、前回選挙での野党の大混乱に起因する地滑り的勝利から 通常水準に戻っただけで、それでも261議席の絶対安定多数を確保した。これは十分に勝利である。しかも小選挙区の当落は、この選挙制度と選挙戦略によるところが大きい。にもかかわらず、どうして「民意」を持ち出したいのだろうか。

理由ははっきりしている。そこに「国民の意思」というものを読み込みたいのだ。「意思」とはやっかいな言葉である。強い信念や信条がそこには示されており、確固たるものが暗示されている。その結果、「国民の意思」を人質にとれば、正当性が生まれる。朝日は、「民意」という言葉を無理やりに人質にとって、「自民一強体制」への批判を正当化しようとし、毎日は与党の勝利を認めまいとする。自らの主張を「民意」によって正当化しようとしているだけである。

「民意」にすり寄る政治家

もちろん、これは朝日、毎日という反自民系の新聞だけのことではない。与党支持派は、この結果を、自民による政治の安定こそは「民意」であるというであろう。ここでもまた「民意」を持ち出す。

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選挙は「民意」を問うものだということになっている。さして主張のない候補者に限って、自分こそは「民意を国会に届ける」と選挙で訴え、新たに選出された首相は、これまた必ず「民意を大事にする」というのが通例になっている。「民の声は天の声」といわんばかりに、政治家は「民意」にすり寄る。まさしく言霊憑依である。しかし、「民意」とはいったい何なのであろうか。なぜ誰もそれを問おうとはしないのか。

それも理由ははっきりしている。まともな政治家が本心から「民意」を信じているなどとはまず考えられまい。まともな政治家であれば、「民意」などというよりも前に、世界や日本社会についての自らの見解や信念があるだろう。

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