役所広司「仕事は怠けようとする自分との戦い」 準備をする中で必ず何かのヒントが見つかる

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――筆者も事前準備は大切だと考えていますが、気力と体力を使う作業だと捉えています。役所さんも大変なのでは。

今回演じた河井継之助のように、大人の役ほど事前にやるべきことが多いんですよね。役柄そのものが人生経験を積んでいるぶん、人間性に深みがいる。

継之助は賢さも、ある種のずるさも兼ね備えています。若い頃に自分と同年代の役を演じたときは、一色や二色などの直球で演じればよかったのですが、継之助のような役はたくさん研究をしてから演じなければいけない。サボる余裕など、ありませんでした。もし今後、痴呆症の役を演じる機会があったとしても、ただほうけているのではなく、徹底的にリサーチをすると思います。

――役所さんのお仕事観から見ると、作中で継之助が言う「不退転の覚悟(信念を持ち、どのようなことにも屈せず意思を貫くという意味)」という台詞にも共鳴できた印象があります。

「不退転の覚悟」という言葉は、継之助の人間性そのものを表す言葉だと思います。継之助は絵描きを目指す若者に、「侍の時代はもうすぐ終わる」と伝え、「だからこそ好きな道を目指せ」といったニュアンスのアドバイスをしますが、継之助自身も終わると知りつつも、侍の精神はこの国に必要なものだと思いながら演じました。

僕自身の人生においても言えることですが、好きなことを磨き伸ばすのは大切だと思っています。僕は友人に誘われて仲代達矢さん主演の舞台、『どん底』に深く感銘を受けて俳優への道を志し、いつの間にか俳優業という仕事を好きになっていましたが、好きなことに出会ったら、突き詰めたほうがいいと思います。出会ったらそこで我慢し続ける、「不退転の覚悟」も大事かと。

僕たちの仕事は、本当に浮き沈みが激しい。若いときはなかなかいい仕事に巡り会えないことがあっても、頑張ってやり続けることによって、花が開く時期が来るかもしれないからです。花開くときは我慢した人間にしか訪れない褒美だと思いますし、好きであればやり続けることが大事かな、と。

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