「マトリックス」が描いた90年代アメリカの不安感 インターネットの普及で社会は一変し始めた

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映画『マトリックス』は、情報化社会の訪れによるアメリカ社会の空気感を反映しています(写真:vitacop / PIXTA)
1990年代アメリカは、第二次世界大戦後ほぼずっと抱え込んできた最大の問題、ソ連との「冷戦」という敵対関係がひとまず消滅したことで、大きな転換点を迎える。
敵対する国家の存在で保たれていた国民的な連帯が、徐々にほどけていくーー。
平和というよりは、どこか空虚な空気が、時代を包み込んでいた。
そうした流され行く日々の中で、アメリカが見失っていた大事なものとは、いったい何だったのか?アメリカ、喪失の90sの正体とは?
サブカルチャーから社会を考察する歴史家にしてボストン大学教授ブルース・シュルマンと『ファンタジーランドー狂気と幻想のアメリカ500年史』で日本でも多くの読者を獲得しており、ラジオパーソナリティもこなす洒脱な作家カート・アンダーセン。この二人を迎えた異色の企画『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70-90s』から一部を抜粋してお届けする。

90年代、インターネットで社会が激変

1995年はウィンドウズ95が発売され、パーソナルコンピューターが一般家庭に広まるきっかけとなった年である。

そして、PCの普及と共に、誰もがインターネットを利用し始めたのがこの1990年代後半のことであった。

インターネットの普及は、社会を劇的に変えることになる。どんなに遠くにいても一瞬にしてメールが届くようになり、24時間いつでも世界中の情報にアクセスできる。まさにおとぎ話、ファンタジーのような技術は、ポップカルチャーのあり方にも大きな影響を与えた。

1990年代後半、アメリカ経済はこうした情報通信産業の活況によって息を吹き返す。今や世界有数の巨大企業に成長したグーグルが、スタンフォード大学の大学院生によって創業されたのは1998年のことだった。

インターネットがもたらした社会の大きな変化。変革は希望であると同時に、不安の源泉ともなり得る。今やGAFAMと呼ばれる巨大テック企業群が世界のプラットフォームとなり、その功罪が議論され続けているのはご存じの通りだ。

〈作られた世界で暮らす人間たち──アンダーセン〉

1990年代末に、その後訪れるであろう未来を見事に予見した二つのすばらしい映画がありました。それが『マトリックス』(1999)と『トゥルーマン・ショー』(1998)です。

1990年代は言うまでもなく、情報化社会の始まりです。もちろん、その現実的な影響やコンピューターがもたらす未来を描こうとした映画はたくさんありました。しかし、これら二つの映画は、それをより詩的な方法で描き、デジタル時代に何が起ころうとしているのかという本質を見抜くものでした。

『マトリックス』においては、主人公ネオ(これはハッカーとして裏の世界での名前であり本名はトーマス・アンダーソン)は、自分が現実に生きていると思っている世界は、コンピューターが作り出した仮想現実であることを知らされます。

『トゥルーマン・ショー』では、主人公のトゥルーマンは、テレビ局が作り出したリアリティ番組のための世界の中で生きているのですが、本人はそのことに気づいていません。ただ一人だけ、それが偽物の世界であることを教えてくれた女性に出会うために、トゥルーマンはある時外の世界の存在に気づいて、そこから抜け出そうとします。

2つの作品とも、私の言葉で言えば、「幻想・産業複合体」による陰謀によって作り上げられた「現実」の中で生きている人の物語です。

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