小田急車掌が腕比べ「入替合図選手権」なぜ開催? 全車掌区から24人参戦「赤い1000形」手旗で誘導

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それぞれの選手は競技後、採点担当の主任車掌からアドバイスを受けた。採点者兼アドバイザーは車両輸送の担当者などベテランの車掌4人が務めた。自身の“先生”に当たる上司が車両輸送担当者だったという海老名車掌区の主任車掌、梶原拓実さんは「車両輸送の担当者になりたいな、という若手が出てくれたらうれしい」と期待を込めて話していた。

優勝した鈴木輝星さんの決め手は運転士との「打ち合わせ」だった(記者撮影)

今回の選手権で、優勝を獲得したのは海老名車掌区の鈴木輝星さん。ひとり立ちして4カ月弱の新人という。事前に先輩や上司だけでなく、運転士とも相談して競技に臨んだことが実を結び、98点という高得点だった。選手権の担当者、運転車両部技術員の松村信輝さんは「運転士とのほぼ完璧な打ち合わせ、合図掲出で、2位の出場者とは打ち合わせ内容で点差が生じた」と明かす。

選手権だと「楽しく学べる」

これまで車掌区ごとに入れ替え合図の訓練をすることはあったが、全社から参加者を募ったコンテスト形式は初めて。松村さんは「採点をして楽しむ要素を取り込んだ。入れ替え合図はいつ何時、必要になるかわからない。経験する人が増えることですぐ対応できるようになれば」と狙いを語る。

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そのうえで選手権を「コロナ禍で希薄になりつつあったコミュニケーションの題材としても役に立てたようで、目指していた“楽しく学べる”という場を目の当たりにできた。一番の立役者は各所属区の勉強会から当日の採点までを担ってもらったアドバイザーの4人の主任車掌。競技終了後のフィードバックが『非常に勉強になった』と笑顔で語ってくれた参加者がとても印象に残った」と振り返る。

また、今回は車掌の仕事にスポットを当てて開催したが、運転士も見学に来ていて「本来、入れ換え合図は運転士と息を合わせて行う作業のため、運転士に対しても大きな学びの場とすることができたのでは」とみている。今後については「イレギュラーに遭遇した場合の対応をスムーズに行えることは、結果としてお客さまの安全・安心に繋がる。これからも『楽しく学べる機会』を創出していきたい」という。

列車の故障はもちろんないに越したことはないが、滅多にないからこそ訓練をしておくことが欠かせない。今回のように選手権という積極的に参加したくなる形で技術を競い合うようにしたほうが、いざというときに備えた訓練としてはいちばん効果的なのかもしれない。

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橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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