JR東海「葛西名誉会長」亡き後のリニアの行方 国鉄改革を主導、長期的視野で建設に邁進
葛西氏の理念は2014年3月にJR東海、JR東日本、JR西日本、JR九州の4社が共同で設立した「国際高速鉄道協会(IHRA)」に色濃く反映されている。IHRAは元国土交通事務次官の宿利正史氏を理事長に据えたオールジャパンによる海外への新幹線売り込み組織だが、理事長代理のトーケル・パターソン氏はJR東海の取締役。かつてアメリカ国家安全保障会議の部長を務め、JR東海の超電導リニアを海外に売り込む会社の社長を務めていたこともある。
「時速500kmの超電導リニアでアメリカの交通体系を安定させ、省エネ化を図る」という葛西氏の意向に基づき、JR東海はリニアをワシントンDC―ニューヨーク間に展開するという取り組みを続けている。
アメリカへのリニア導入は野心的な取り組みだけになかなか進展しないが、JR東海にはテキサス州のダラス―ヒューストン間を新幹線型の高速鉄道で結ぶというプロジェクトもある。こちらは同州に設立した子会社が現地のプロジェクトに対して技術支援などを行っている。2020年11月には連邦政府が環境影響評価を最終決定し、このプロジェクトに限定した安全基準を定めるなど、着実に進行中。あとは、資金確保のメドさえつけば着工に漕ぎ着けられるという段階まで来ている。
リニア「自己負担で建設」打ち出す
葛西氏亡き後、JR東海の経営はどこに向かうのだろう。葛西氏が社長に就任したのは1995年。その後1999年に700系が運行開始し、2003年にJR東海の品川駅が開業すると、東海道新幹線のダイヤは「のぞみ」中心に変わった。
東海道新幹線の設備投資が一段落し、収入も着実に増加。JR東海の経営は順調に推移していた。2004年に会長に就任した葛西氏は、次の50年を展望した新たな目標を定めた。それがリニア中央新幹線で東京―名古屋―大阪という3大都市圏をつなぐというプロジェクトだ。
リニアのメリットは時速500km走行による時間短縮効果だけではない。東海道新幹線も「ひかり」の運行本数を増やして豊橋、浜松、静岡などの駅と東京、名古屋、新大阪の所要時間を大幅に短縮できるほか、大動脈の二重系化による地震災害リスクの回避も期待できる。品川―名古屋間だけでも5兆円を超える巨額の資金がかかるが、東海道新幹線の収益力をもってすれば国庫負担に頼ることなく、自己負担で調達可能という判断だった。
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