JR東海「葛西名誉会長」亡き後のリニアの行方 国鉄改革を主導、長期的視野で建設に邁進

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5月30日、雲一つない青空の下でJR橋本駅(神奈川県相模原市)近くに設置される予定のリニア新駅の工事現場が報道陣に公開された。この新駅は旧相原高校の跡地を活用して地下30mの場所に造られ、長さ約680m、幅は最大で50mという巨大なものだ。高校の敷地は工事スペースを広く取れるため地上から斜めに掘削し、建物や道路が隣接するエリアは地上から土を抑えるための仮土留壁を構築し、仮土留壁を支えるための支保工を設置しながら段階的に掘削する。「いろいろな工法で造られるのがこの駅の特徴」とJR東海中央新幹線建設部の吉川太郎担当課長が話す。

神奈川県相模原市で進むリニア中央新幹線神奈川県駅の工事現場。広いスペースがある手前の部分は地上から斜めに、奥の部分はやや狭いため支保工を設置しながら掘削する(記者撮影)

相模原市にとってリニア開業のメリットは大きい。橋本駅と都心を結ぶ鉄道の所要時間は1時間程度だが、リニアなら約10分だ。また。新駅は地下深くに設置されるため、市は地下1階を商業店舗が並ぶ地下街に、地上部分も商業施設や公園などに活用したい意向だ。つまり、鉄道開業は単なる交通網の構築ではなく、沿線の不動産開発にもつながる。

鉄道史に名を刻む

2016年11月に京都市内で開催されたIHRAの国際フォーラムの席上で、国家戦略と高速鉄道に関する討議が行われ、各国の大物政治家とともに葛西氏がパネリストの1人として登壇した。

壇上でトム・ダシュル元アメリカ上院院内総務が、大統領選に勝利したドナルド・トランプ氏が選挙公約として打ち出していた交通分野を含む総額1兆ドルのインフラ投資について、「その資金をどうやって調達するのか」と疑問を呈すると、葛西氏は、「北米には不動産開発のチャンスが豊富にある」とこともなげに答えた。これに対して、デービット・ハウエル元イギリス運輸大臣は、「日本から学ぶことは多い」と付け加えた。鉄道を活用した街づくり。イギリスは現在HS2というロンドンとバーミンガムを結ぶ高速新線を建設中だ。新線を契機にバーミンガムなどで再開発の機運が高まる。

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JR東海の金子慎社長は5月27日の記者会見で、葛西氏について「長期的な視野でプロジェクトを継続的に進めるという意味で大きな見識があった」と述べた。「大変歴史に通じていて、読者家であり、私たちも目を開かされることがしばしばあった」。

今年は新橋―横浜間に鉄道が開業して150年を迎える節目の年である。鉄道建設に尽力した大隈重信らとともに、国鉄改革で中心的な役割を担い、リニア中央新幹線の実現に道筋をつけた葛西氏も鉄道史にその名が深く刻まれることとなる。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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