北海道新幹線「並行在来線」理不尽な廃止の裏事情 データを精査せず、強引にバス転換を決定

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専門家はこの数値に対して懐疑的な見方をする。

余市ー小樽間の営業キロ当たりの赤字額が民鉄平均の約7倍と見積もられている。鉄道統計年報を元に筆者作成

富山ライトレールの再生計画に携わり、現在は富山市交通政策監と富山大学学長補佐を務めている特別研究教授の中川大氏は、「道による損益の試算は、同程度の輸送密度の路線の赤字額よりもかなり大きいと考えられる」「近年の鉄道路線の存廃に関する検討において実施される費用便益分析が国土交通省の助言により行われてもよかったのではないか」と話す。

試算での赤字額が異常に大きいのは、高コスト体質のJR北海道の経費水準をもとに試算したものと考えられ、実際、同じ豪雪地帯の北陸地方を走る地方鉄道はこれよりもはるかに小さい経費で運行されている。輸送密度が比較的近いえちぜん鉄道(福井県)の水準で計算すると余市―小樽間の赤字額は年間5億円から年間1億円程度にまで圧縮される。

近年の鉄道路線の存廃議論おいて実施される費用便益分析に基づいた議論が行われなかったことも問題だ。仮に鉄道が赤字だったとしても社会に対する経済的価値が赤字額を上回っている場合には、鉄道が存続と判断されるケースも多い。

2012年のえちぜん鉄道(福井県)のケースでは、向こう10年間の赤字額、約58億円に対して、時間短縮便益や道路渋滞緩和便益などの社会的便益の合計額が約110億円と、鉄道の赤字額を大きく上回る社会的便益が発生していると分析され、県と自治体による補助金投入を継続しての鉄道存続が決定された。

余市―小樽間においても、同区間の鉄道が廃止になれば並行している道路や小樽市内の道路などでの渋滞が発生し、特に降雪のある冬期間にバス所要時間の著しい増加が懸念されることから、鉄道を維持することによる「便益」が高くなることは想像にかたくない。

北海道庁はなぜ鉄道を剥がしたがるのか

取材を続ける中で背景として見えてきたことは、ここ20年間のJR北海道の事故頻発とサービスダウンから道関係者に醸成された鉄道に対する激しい嫌悪感である。加えて、関係者の調整役としての役割しか果たせなかった北海道の鈴木知事のビジョンとリーダーシップの欠如。

道が鉄道の強硬なバス転換推進に舵を切った要因はここにあるのではないかと考えられる。

しかし、これは近年の全国的な流れとは逆行する動きである。JR西日本のローカル線の見直し問題に対して、多くの輸送密度2000人未満の路線を抱える鳥取県の平井知事や島根県の丸山知事は、鉄道路線維持の立場を取り、国に対して基本政策の見直しを申し入れている。

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