「米国の株価はついに上昇に転じた」といえるか 「9週間ぶりのNYダウ大幅反発」が意味すること

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一方、ウクライナ情勢の市場への影響についても、同じようなことがいえそうだ。ロシアのウクライナ侵攻はすでに3カ月が経過したが、戦争戦略のある専門家に言わせると「戦略は6カ月が1つの区切りであり、6カ月ごとに戦略は展開(変化)していくものだ」という。そして、3カ月目が作戦のピークだそうだ。

つまり、現時点が「混迷のほぼピーク」ということになる。この理論に沿うと、株式市場にとって大きなリスクであるウクライナ戦争は、あと3カ月という「後半のひと区切り」を残していることになる。しかも、さらに「次の6カ月」があるとしたら、時間的にまだ買えないということになる。

市場の声をしっかり聞くとき

このように、アメリカの景気後退懸念と予想で売って実現で買いとなる2つのネガティブリスクは一応、「実現」という1つの峠を越えた。だが、リスクが完全に解消されたわけではない。時間軸が見えない不透明感の中で、投資家の心はまださまよっている。

それでも、わずか2週間前まで90年ぶりとなる記録的な下げで年初来安値を更新したあと、意味もなく大幅反発したのだろうか。「市場のことは市場に聞け」といわれるが、今週は5月末の週であり、かつ6月相場(さらにその後の夏相場)のスタートの週でもある。市場の声をしっかり聞く、重要な週だ。

さて日本市場の直近の需給関係を見ると、財務省によれば5月15~21日の非居住者による「対内証券株式投資」は41億円の買い越しになった。また、東京証券取引所ベースでも外国人は336億円の買い越しで、6週連続の買い越しのあと、売り越しに転じていたが、小幅ながら再び買い越しに戻ってきた。

日経平均株価においては、上値のしこりがきつく、上がると売られる展開が続いている。だが、FRBと違い、日本銀行は金利を徹底的に抑え込んでおり、量的緩和もなお続いている。

それを表すマネタリーべース(日銀の資金供給量)4月の平残は、前年比6.6%増の687兆4736億円、マネーストックM3(市中に出回っている資金量)も同3.2%増の1556兆5000億円と、両者とも過去最高になっている。

国会証言で日銀の黒田東彦総裁は金融緩和政策を維持することを、再度明言している。また、今期の企業業績も、今のところは最悪でも増益基調は維持できるようだ。

このように日本の市場環境は決して悪くなく、27日のシカゴ日経平均先物(円建て)は2万7160円で帰ってきている。再び、2万7000円台抜けの挑戦が始まる。

今週は、31日の中国5月製造業・非製造業PMI、6月1日国内の1~3月期法人企業統計、3日のアメリカ5月雇用統計などに注目している。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

平野 憲一 ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト

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ひらの けんいち

日本証券アナリスト協会検定会員。株一筋約45年。歴史を今に生かすことのできる「貴重なストラテジスト」として、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌への出演や寄稿記事多数。的確な予想で知られ、個人投資家の間には熱烈な「平野ファン」がいることでも有名。1970年に立花証券入社以来、個人営業、法人営業、株ディーラーを経て、2000年情報企画部長マーケットアナリストとして、投資家や各メディアに対してマーケット情報発信をスタート。2006年執行役員、2012年顧問就任。2014年に個人事務所ケイ・アセット代表。独立後も、丁寧でわかりやすい解説を目指す。

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