1人当たり潜在成長率、高める構造改革が必要--河野龍太郎・BNPパリバ証券チーフエコノミスト《デフレ完全解明・インタビュー第12回(全12回)》

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私自身は日本経済の問題は、デフレ期待が強いことではなく、人口減少を背景に、企業のゼロ成長期待が強いことだと思っている。活発に消費する世代が減り、売り上げが増えないと企業が想定している。企業にゼロ成長予想が浸透し、1%程度の生産性上昇が見られても、その分価格が引き下げられ、1%程度のデフレが定着している。そうしたデフレ均衡に陥っている可能性が高く、インフレを起こしても、均衡成長率は高まらない。

──必要な政策はどのようなものですか。

構造改革だ。構造問題を取り除くことで、1人当たりの潜在成長率(均衡成長率)を高めていけば、金融政策の有効性も復活する。

経済成長の源泉は国民一人ひとりの創意工夫にある。政府介入を減らし、自由化する、規制緩和を進めることが、最も確実な方法だ。

現役世代向けの供給は過剰だが、高齢者が欲している財やサービスが供給されていない。医療や介護の分野は規制が強く、人々の嗜好の変化に供給が追いついていっていない。人口減少のフロントランナーである日本が、それに対応したビジネスモデルや社会制度を作り出す必要がある。それができれば、成長率を高めることもできる。あとは、TPPに代表される経済連携で国を開くこと。海外需要を取り込むことで、企業の成長期待の低下を食い止められる。

人口減少に対応し、社会保障制度改革と税制改革は絶対にやらなければならない。現在の制度は、生産年齢人口が増えていることを前提に出来上がった仕組み。現役世代がその持続性に疑念を持っており、将来に対する不安から支出を抑制していることが、1人当たりの成長率を引き下げる要因にもなっている。社会保障制度が、保険制度として完結しなくなっていることが、公的債務膨張の原因でもあるので、改革は喫緊の課題だ。

■デフレを理解するための推薦図書■
『デフレとの闘い』 岩田一政 著/日本経済新聞出版社
『マクロ経済理論の新たな展望と政策的含意』 ウィリアム・R・ホワイト著/ IMES DISCUSSION PAPER SERIES, Discussion Paper No.2010-J-23
『アニマルスピリット』 バート・シラー、ジョージ・A・アカロフ 著/東洋経済新報社

こうの・りゅうたろう
1964年生まれ。87年横浜国立大経済学部卒、住友銀行(現三井住友銀行)入行。大和投資顧問、同米国駐在、第一生命経済研究所を経て2000年より現職。財務省、内閣府の研究会等の委員を歴任。著書、訳書多数。
撮影:ヒダキトモコ

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