香港市民が「新リーダー」に抱く多すぎる不安要素 今まで警察や保安局以外の部局での経験がない

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警察出身の李家超氏が香港のトップに就任する(写真:AP/アフロ)

5月8日、第6回香港特別行政区行政長官選挙が行われ、1461人の選挙委員による投票の結果、中国政府によって李家超(ジョン・リー)・元政務長官(64)が、香港政府のトップである行政長官に選出された。李氏は7月1日の香港返還記念日に就任予定だ。

投票の結果を受け、香港の親中メディアは李氏の当選は99.2%の高得票率だったと強調、中国政府の香港政策局である国務院香港マカオ事務弁公室(以下、「香港マカオ弁」)はその得票率が「香港社会による李氏への高い評価と賛同を示すもの」だと発言した。また中央政府の香港出張機関である中央政府駐香港連絡弁公室(以下、「中連弁」)も「香港の特色を持った民主の実現と発展に成功した」と高く評価した。

だが、これをどうしたら「民主的に選ばれた」と言えるのだろうか。行政長官を選ぶ権限がある選挙委員会の定員は、昨年改定された選挙制度によって、それまでの1200人から1500人に増えた。

ところが選挙委員会の構成員をみると、これまでは100%有権者の投票で選出される区議会議員が横滑りで就任していた枠が撤廃された。

かろうじて立法会(最高議決機関)議員の委員枠は残されているものの、昨年行われた立法会議員選挙は、民主派の候補らが軒並み「香港国家安全維持法」(以下、国家安全法)違反容疑で逮捕された中で行われ、親中派が議席を独占。選挙も過去最低の投票率となった。

李氏を「唯一の候補者」と指名

新たに増枠された選挙委員枠には、全国人民代表大会や政治協商会議など中央政府が任命する「香港地区代表」が滑り込んだ。中国政府はこの制度改変を「制度を改善した」としている。ただ、前述したとおり過去の制度では庶民は直接投票できなくても、普通選挙で選ばれた代表による「代議」での意志反映ができていたが、その道も完全に塞がれてしまった。

このように行政長官を指名する選挙委員の大多数が親中派で占められているうえ、そんな中、さらに中連弁が李家超氏を呼びつけて「唯一の候補者」と指名したことで、それまで立候補の意志を表明していた人たちは、立候補申請に必須となっている選挙委員からの推薦を、誰1人獲ることができなかった。つまり、新制度下の選挙委員には中国政府の決定に「ノー」を突きつけられる人が誰もいないことを示している。

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