香港市民が「新リーダー」に抱く多すぎる不安要素 今まで警察や保安局以外の部局での経験がない

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選挙キャンペーン中にはさらに市民を驚愕させる出来事も起きた。李氏陣営が動画サイト「YouTube」に作ったアカウントが突然抹消されたのである。後に、親会社の「Google」から「アメリカの法律に基づく措置」と説明があったことが明らかになった。

Googleがいう「法律」とは、2020年の国家安全法の制定直後にアメリカ政府が「香港の自治を損ねた」として林鄭長官をはじめ、保安局長だった李氏ら11人を経済制裁対象者としたことだった。制裁は対象者のみならず、その家族に対しても、アメリカ入国制限や、同国内の資産凍結、また銀行を含む同国でビジネスを展開する企業との取引を禁じている。

これによりアメリカ企業と取引がある銀行の口座を持てなくなった林鄭長官が、現金で報酬を受け取っていることを認めて話題にもなった。さらには、当時ハーバード大の大学院に留学中だった、林鄭長官の次男も急遽香港に呼び戻されている。今回、李氏陣営は「YouTube」アカウントに課金しようとして、この制裁に触れたと見られている。

人材不足の李氏組閣はどうなる

パンデミックでその影響があまり顕著ではなかったこれまでと違い、今後李氏は積極的に海外との連携を増やしていかざるをえない立場にある。その時に、アメリカによる制裁がいかなる影響を及ぼすのか。制裁で手も足も出せない行政長官の代わりに、中国政府が信頼する人物が直接起用される可能性もあるかもしれない。

そんな李氏は現在、「組閣」準備を進めているが、そこでもまた驚きの発言が飛び出した。彼は自分の妻に「公職を担当してもらうつもりだ」と述べ、その役職を「彼女に選ばせる」と述べたのである。だが、彼女については李氏の妻という以外ほとんど公開情報がなく、年齢すら公開されていない。

公職をあてがうのであれば、もうちょっと彼女のキャリアに関する情報が公開されてもよいはずだと考える人たちの間で、そうするうちに、ちょっとした臆測が流れ始めた。李氏の公開情報から逆算すると、二人は未婚のまま第一子をもうけたらしいこと、さらに彼女は未成年だったのではないか――というのである。

もちろん、はっきりとした証拠がない限り、それは臆測の域を出ないし、たとえ実際にそうであったとしても昔のことではあるが、さすがに警察出身の行政長官としてはなかなかセンセーショナルな話である。さらにそれを長官側が「ひた隠し」にしているのも、逆に不誠実なイメージになりかねない。

そんな中で李氏がなぜ夫人に公職を任せようと考えたのか、理由は定かではないが、次期行政長官が指揮を執る香港の行政は庶民にとってまだまだ不安たっぷりな状態なのである。

ふるまいよしこ フリーランスライター

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ふるまいよしこ

北九州大学(現北九州市立大学)外国語学部卒。香港中文大学で広東語を学び、雑誌編集を経てライターに。香港居住14年の後、北京での13年半を経て、中国や香港について、大手メディアが注目する政局視点よりも、主に社会や庶民の視点からのレポートを行う。著書に『中国メディア戦争』(NHK出版)など。noteはこちら

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