香港市民が「新リーダー」に抱く多すぎる不安要素 今まで警察や保安局以外の部局での経験がない

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そうした中で、中国政府が「賢能」と呼び、次期行政長官に就任することになった李家超氏とは、いったいどんなバックグラウンドをもつ人物なのか。

李氏は高校卒業とともに香港警察入り、2010年には警務処副処長(警察次長に相当)まで上り詰めた。2012年に香港政府の保安局(公安局に相当)入りするまで30年あまり、警察官として麻薬や凶悪犯罪、ネット犯罪などの取り締りの前線に立ってきた。

2017年7月に林鄭月娥(キャリー・ラム)・現行政長官が誕生すると、李氏は保安局の局長となり、昨年6月に政務長官に就任した。これまでは政策担当公務員が政務長官を担うのが伝統だったが、李氏は武官出身者初の香港政府ナンバー2になった。

この人事には、2014年の雨傘運動、2019年の大型デモへの対応、さらには2020年の国家安全法導入という功績を認めた中国政府の指示があったとも臆測された。

ここから、李氏の次期行政長官選挙出馬が取り沙汰され始めた。ただし、当時はまだ一般的に林鄭長官が再選を目指すという予測のほうが多かった。それに合わせるかのように中国政府に近い体制派実力者による「林鄭長官のよいところは聞き分けがよいことだ」などと褒めているのか貶しているのかわからない発言もあり、中国側も林鄭長官続投を期待していると考えられていた。

ナンバー2になって影が薄くなった

また、実際に政務長官になってからの李氏は、保安局長時代に比べて影が薄くなった。それも当然だ。政府ナンバー2になったとはいえ、李氏は警察や保安局以外の部局での経験がまったくない。生え抜きの公務員から政務長官を経て行政長官になった林鄭氏は、それまで財政、福祉、貿易、民生、都市開発などさまざまな行政に関わった。中国政府筋がいう「聞き分けのよさ」もまた、そうやって政府や公務員組織の機微を知り尽くしたうえで、中国政府の指示に従って政府を運営してきたからこその評価だった。

次期長官の李氏は、これから香港政府は2019年のデモ、そして2020年以降続く新型コロナウイルス対策を経た後の立て直しを進めていくという重責を負っている。経済界や企業との連携、海外との交流や貿易の再展開、さらには政府と民間の関係改善など積極的に進めなければならない中、驚くべきことに李氏はこれまで従事した経験がまったくないのである。もちろん、董建華・初代行政長官のようにビジネスの経験すらないのだ。

今春の香港は1日の新規感染者が7万人に達するという過去最悪のコロナエピデミックに見舞われ、林鄭長官は冬季オリンピックや政治会議を欠席して陣頭指揮に当たった。一方でナンバー2の彼はいったい何をしていたのか、記憶に残っている香港市民はあまりいないようだ。

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