英誌論客が語る後藤健二さんの"記者魂" 英エコノミスト誌元東京支局長が緊急寄稿

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彼のリポートはNHKやテレビ朝日など大手テレビ局で放送されることも多いが、安全面の責任はあくまで自分にあると後藤氏は言い張ってきた。そこには自分が危険な状況に陥ったとき、大手メディアの友人たちが非難を受けないようにとの気遣いがある。今回、後藤氏がイスラム武装集団に拘束される直前に残したビデオで、「何か起こっても責任は私にあります」と語っていたのも、そうした思いがあったようだ。

後藤氏自身、これまでに多くの戦争の恐怖を味わってきた。リベリアでは、無数の死体がブルドーザーでプール大の穴に放り込まれるのを見た。イラクで額に銃を突きつけられたこともある。だが、そうした中でも、後藤氏は希望、とりわけ子どもたちの希望を見つけて伝えようとしてきた。2003年の『ようこそボクらの学校へ』(NHK出版)は、イラクやアフガニスタンの子どもたちが自分の学校を紹介するビデオ(DVD)付きの書籍だ。紛争で休校になっている場合もあるが、子どもたちは荒れ果てた校舎に後藤氏を案内して、未来への夢を語る。

後藤氏は解放されるべきだ

ほかにも後藤氏はエストニアのエイズ問題、シエラレオネの子ども兵士、ルワンダのジェノサイド、アフガニスタンの少女について本を書いている。日本の学校を訪問して、学校に行くのが「普通」である子どもたちに、紛争地帯の子どもたちの状況を話して聞かせることもある。

ジャーナリストの池上彰氏は、NHKの『週刊こどもニュース』に後藤氏がゲスト出演したときのこと話してくれた。後藤氏は、中東の紛争がピンと来ない日本の子どもたちに、悲惨な状況をわかりやすく伝えようと努力していたという。「やさしい男であり、伝えることに義務感を持っている人間だと感じた」と、池上氏は語っている。また彼によると、一般の日本人にとって中東の紛争は縁遠いというイメージが大きいが、後藤氏の人間味あふれるリポートを見て関心を抱き、難民支援のボランティア活動に参加する人も出ていたという。

イスラム国武装勢力による拘束が明らかになった当初、日本では後藤氏の解放を求める声は控えめだった。ソーシャルメディアには、「そもそもシリアなんかに行ったのが悪い」と批判する声もあった。だが今は、フェイスブックとツイッターを使った「アイ・アム・ケンジ(#IamKenji)」キャンペーンなど、後藤氏の解放を求める声が急速に広がっている。最新のビデオを見るかぎり、後藤氏の命は今も危うい状況にある。悲惨な紛争地帯で人間味あふれるリポートをしてきた勇敢なジャーナリストが今、悲劇的な状況に置かれている。後藤氏は解放されるべきだ。

ジャーナリスト保護委員会(CPJ)のブログより転載。原文はこちら

                                   

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