退職した人は16%「不妊治療」調査で見えた過酷さ 医師から見た「働きながら不妊治療」の現実
不妊治療の際に負担あるいは支障を感じているものは何かという質問については、ほかの2つの施設では「自費診療の治療費の負担」と答える人が最多であったのに対し、山王病院では「通院のための時間的制約や仕事との両立」と答える人の割合が80%と、最も多かったのです。
次いで、「体外受精など自費診療の治療費の負担」が74%、「メンタル面・精神的負担」が62%と続きます。「治療に際する身体的苦痛」(33%)よりも、経済的負担、精神的負担が大きいことがわかりました。
不妊治療と仕事を両立する支援制度を
全国的にも働きながら不妊治療を受ける人は増加傾向にあります。ところが、厚生労働省が行った調査(平成29年度「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」)によると、仕事と不妊治療の両立ができない(できなかった)人が34.7%に上ります。
不妊治療が始まると、どうしても女性のほうが男性より時間的負担が大きくなります。
この調査によれば、女性の通院日数の目安は、検査に4日以上(1回の所要時間は30~120分)、タイミング法や人工授精などの一般不妊治療の場合は、通院が2~6日/月(通院時間は数時間)、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の場合は、診療時間が数時間かかる通院が4~10日。さらに1回当たり半日~1日程度の通院が2日あります。
男性は、検査に半日~1日、人工授精・体外受精にそれぞれ半日程度(手術をともなう場合には1日必要)ですから、女性の通院回数の多さがわかると思います。頻繁なことに加え、排卵周期に合わせることが求められるため、前もって治療のスケジュールを組むことが難しい場合もあります。
その結果、仕事を辞めたり(16%)、雇用形態を変えたり(8%)、あるいは治療の継続を断念したり(11%)しています。両立できない理由には「精神面で負担が大きいため」「通院回数が多いため」「体調、体力面で負担が大きいため」が上位を占めていました。
現在、不妊治療のための休暇・休職制度や不妊治療にかかわる費用の助成制度などを実施している企業は約2割にとどまります。一方、不妊治療を受けていることを「職場にいっさい伝えていない(伝えない予定)」と答える男女は58%に上り、その理由としては「不妊治療をしていることを知られたくないから」が最も多くなっています。
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