国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授《デフレ完全解明・インタビュー第7回(全12回)》

──では、金融政策では解決策にはならないですね。

ある国が、衰退している状態から金融政策ぐらいで脱却できたら幸せだ。インフレは貨幣膨張によるサポートなしには起こらないが、逆に、金融緩和があれば必ず可能というわけではない。インフレを起こすのは貨幣的要因だけなのかといえば、違う。そういう瑣末な議論は、本質から目をそらさせるので、逆効果だ。デフレ脱却議員連盟の人たちは、社会保障制度や税制の改革について抜本的な方向性を打ち出すという、本来、自分たちがやるべき仕事をせずに、「日本銀行がもっと金融緩和しないからいけない」と言っている。そういう政治状況こそが問題だ。

日本は現状維持のために、財政を使い、衰退している

--「衰退」だから、物価だけの問題ではなくて、潜在成長率が低下していることが問題なわけですね。

最近、バーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、労働者が長期間失業を続けると技能が失われるということも心配だと発言している。日本の場合も、TFP(全要素生産性)が90年代に入って鈍化した。その原因は何かと考えると、労働生産性の低い公共事業を通じて雇用を確保し、産業構造の転換を行わなかったことにあると思う。労働生産性を改善するのはとても大事なことだ。

労働人口が減っていくので、資本装備率を上げるか、イノベーションか、資源配分の見直し、つまり産業構造の転換を通じて、労働生産性を上げることが必要だ。しかも、産業構造の転換は労働生産性を上げるだけでなく、供給構造を潜在的な需要構造に適合させるという面でも大切なことだ。今は人口動態の変化による需要の変化にも不適合になっていることが大きな問題だ。典型的なのは医療・介護・健康分野だけれども、この分野が計画経済下にあって、価格統制されているから、供給に不足が生じてしまっている。

──そうした分野は成長する分野なのでしょうか。

人の尊厳にかかわる分野なので、むき出しの市場原理を導入すべきではない。ナショナルミニマムとしての医療サービスは公的な保険制度で供給される枠組みを維持するべきだ。一方、皆がナショナルミニマムで満足するわけではないので、自分でおカネを出すからグレードを上げたいという人にはそれを可能にしたほうがいい。混合診療、混合介護を認めてカネを取ればいい。ただ、貧者の共産主義という言葉があるけれども、金持ちだけがよりよい医療サービスを受けられるということを否定する価値観がある。日本はそれが強いように思うので、その壁を乗り越えられるかという問題がある。

 主要先進国で唯一、デフレに陥っている日本。もう10年以上、抜け出せないままだ。物価が下がるだけでなく、経済全体が縮み志向となり、賃金・雇用も低迷が続く。どうしたらこの「迷宮」からはい出し、不景気風を吹っ飛ばせるのか。「大逆転」の処方箋を探る。 お求めはこちら(Amazon)

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