国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授《デフレ完全解明・インタビュー第7回(全12回)》

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国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授《デフレ完全解明・インタビュー第7回(全12回)》

要点
・日本の産業構造は国際環境の変化、人口動態の変化に不適合
・90年代にTFP(全要素生産性)が低下、労働生産性に問題
・金融政策では解決しない。財政支出は変革のために使うべき


──日本経済の長期にわたる低迷の原因はどこにあるのでしょうか。

大きくは二つあると思う。一つは少子高齢化が進んでいるという人口動態の問題であり、もう一つは1990年代以降の国際環境の変化に適合できないまま、20年も経っているということ。90年代というと、日本ではバブル崩壊を語りがちだが、それは内向きの議論。その前に、冷戦構造の崩壊があることを忘れてはいけない。

それまでは、日本の周囲には産業化した国がなかったので、フルセット型の産業構造を作り上げてきた。しかし、90年代以降、冷戦の崩壊に加えて、中国が改革開放路線を歩むなど、社会主義国も市場経済に移行してきた。日本の周りに産業化した国々が出現するようになった。こうした場合、比較優位にある分野に特化すれば国際分業の利益が引き出せる。しかし、白地に絵を描くわけにはいかない。すでにある分野から撤退する場合、雇用が失われたり、あるいは雇用は維持されても転職に伴い技能や経験が失われたりするなど、当事者にとっては痛みを伴う。社会全体としてそのコストを負担しながら産業構造の転換を図るという戦略性が、日本にはなかった。

高度成長期の前には石炭から石油へエネルギー転換を行った例があり、転職が困難な中高年の雇用者の生活を支援した。しかし、90年代には痛みの発生を避け、旧来型の産業構造を維持する政策ばかりが採られた。それでも、国際分業を促す圧力はいろいろな形でかかってくるので、中国との競争で労働条件もだんだん悪くなり、じわじわと撤退を余儀なくされている。

15年前から産業構造の転換を急げと言ってきたが、実現していない。変わるということは大変なこと。若ければ、まだ変わることはできるが、中高年になると特に難しい。ここで人口動態の問題がかかわってくる。今、日本人の年齢の中央値が45歳。変わりたくない人のほうが多い社会。変わることはますます難しくなる。だから、現状を「デフレ」と表現するのは、ごまかした言い方で、「衰退」と言ったほうが正確だ。

 主要先進国で唯一、デフレに陥っている日本。もう10年以上、抜け出せないままだ。物価が下がるだけでなく、経済全体が縮み志向となり、賃金・雇用も低迷が続く。どうしたらこの「迷宮」からはい出し、不景気風を吹っ飛ばせるのか。「大逆転」の処方箋を探る。 お求めはこちら(Amazon)

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