国際分業の利益実現へ、産業構造の転換が必要--池尾和人・慶應義塾大学経済学部教授《デフレ完全解明・インタビュー第7回(全12回)》

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ナショナルミニマムを提供するためだけでも、今の体制は見直さないと続けられない。そちらに資源を回すためには、国際分業の利益を得られるようにしないといけない。比較優位のない分野からは撤退して、どんどん輸出もするけど、自分たちの不得意な分野では輸入する。貿易依存度を欧州の先進国並みに高めていくべきだ。

──財政政策も、今までのような補助金の発想ではダメですね。

現状を維持するための補助金なのが問題だ。補助金を受けて強くなった産業はないというのが基本的な経験則。変わることを後押しし、障害物を取り除き、変化に伴う困難を軽減することに使うべきだ。

──財政危機のリスクを懸念する声がようやく高まってきました。

よく言われるハイパーインフレが来る、というのは私のメインシナリオではないが、日本の経済はタイタニック号だと思っている。目の前に氷山があるのに、いまだにパーティを続けている。いつ神風が吹くのか、という感じだ。2010年6月に「財政運営戦略」が閣議決定されたが、今後について何の具体的な数字もない。うがった見方をすれば、数字を入れようとすると、もうつじつまが合わないからではないか。私が考えるメインシナリオは、いきなり氷山にぶつかるのではなく、その前に国債市場が変調を来して、それを契機に増税に進むというものだ。

──日本だけが産業構造を変えられないのでしょうか。

いま日本が韓国や中国から追い上げられているように、米国は70~80年代に日本から追い上げられて、製造業をほとんどやめて、金融やIT(情報通信技術)へ転換していった。ただ米国の場合は、200年しか歴史のない実験国家で、市場原理の国だから可能だったのではないか。欧州の国と比べた場合に、日本が特に変革へのマインドが弱いという感じはしない。欧州は緩やかに衰退しているわけで、そのトレンドから巻き返す大いなる社会実験が、EU(欧州連合)を作ることだった。

日本はいまだに中国や韓国と同じ土俵で競争する道を選んでいる。そうすると、賃金水準も同じになっていく。このままだと追いつかれて埋もれていくしかない。

■デフレを理解するための推薦図書■
『競争の作法-いかに働き、投資するか』 齊藤誠著/ちくま新書
『2020年、日本が破綻する日』 小黒一正 著/日経プレミアシリーズ、日本経済新聞出版社
『社会保障の「不都合な真実」』鈴木亘著/日本経済新聞出版社

いけお・かずひと
1953年生まれ。75年京都大学経済学部卒。岡山大学助教授、京都大学助教授、慶應義塾大学助教授を経て、95年から現職。京都大学経済学博士。財政制度等審議会委員など歴任。近著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』(共著)、『現代の金融入門[新版]』など。
撮影:今井康一

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