数年以内に危機のおそれ、構造改革の先送りは限界に--伊藤元重・東京大学大学院経済学研究科教授《デフレ完全解明・インタビュー第6回(全12回)》

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構造改革によるTFP上昇に、成長率引き上げの可能性

──潜在成長率を引き上げるにはどうすればいいのでしょうか。

ロバート・ソローが経済成長の説明要因として労働や資本の増加よりも、TFP(全要素生産性)が重要だと指摘した。TFPとは何かというと、二つあって、技術革新と産業構造の変化。グローバル化することで日本は生産性を上げるチャンスがある。たとえば、ユニクロはフリースを、マーケティングは日本でやって、素材は東レとの提携でクオリティを上げて、縫製を中国でやることで大量生産した。外に出した付加価値は2割しかなく、8割は国内にあり、しかも利益を上げている。こういう企業が増えてくれば、TFPを上げるということになる。

それと、女性の労働参加率が日本はまだ低い。そのうえ、キャリアを志向しにくい状況にある。よくM字型というが、出産・育児で女性の就業率が下がるのは、日本と韓国だけという。保育園が未整備で待機児童の解消が遅れているとか、米国の女性がやっているように、外国人のメードさんを雇えないとか、そういう政策の失敗を改めて、女性が働く機会を提供できれば、成長率が上がる可能性が出てくる。育児も介護もインフラがボロボロで、キャリアをあきらめている女性が多い。フィリピンやインドネシアの労働者を入れたくないというのは、業界のエゴだ。

IT(情報通信技術)の活用も有効。医療はITを活用すれば、効率的にサービスを強化できるだろう。

そういうことを目に見える形で進めていけば、デフレギャップを解消していく原動力になる。

──供給過剰の解消と需要を上げていく効果とがあるのでしょうか。

その二つは連動する部分が多い。たとえば、羽田で国際線を使えるようにするのは供給政策だが、結果的に、便利になって海外旅行の需要が増える。過剰供給になっている旧来型の製造業や小売業や住宅産業から人やリソースを介護、医療、環境関連に移せば、需要が喚起される。

──財政健全化は可能ですか。

日本はいま中福祉・低負担。いろいろな意見はあるが、日本人は米国型の低福祉・低負担はあまり好まないと思う。そうすると、結果的に増税しかない。そうしたときに、とにかくおカネが入れば、自分たちのところへ回ってくるんじゃないかと期待する既得権益者がいっぱいいることが問題だ。本当に必要なものなのかメスも入れていかないと、「悪魔は細部に宿る」。

■デフレを理解するための推薦図書■
『産業構造ビジョン 2010』 経済産業省
『デフレとの闘い』 岩田一政著/日本経済新聞社
『ゼミナール 現代経済入門』 伊藤元重著/日本経済新聞出版社、11年2月発売予定

いとう・もとしげ
1951年生まれ。 東京大学経済学部卒業、米国ロチェスター大学経済博士号取得、96年から現職。総合研究開発機構(NIRA)理事長。『世界危機は世界に何をもたらしたか』『日本の医療は変えられる』(共著)など。
撮影:尾形文繁

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