東京⇒ロンドン、33歳の私が痛感した男女不平等 制度は整っていても表面を削れば偏見が顔を出す

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「フェミニズムっていう言葉にこだわりすぎてるんじゃないの? 男性が嫌いとか敵視するってわけじゃなくて、シンプルに男女平等のことだよ。だから今夜みたいにデートは男性が奢る習慣とかを疑問視するのもフェミニズムの1つだと思う。綾にはいろいろ、本当にいろいろなことがあった。あなたのことが好きだから聞いてほしいし、理解してほしい。けど、まずお母様に話を聞いてみて。あなたに話してないいろんなことがあったと思うよ。それを聞いたら一緒にコーヒーを飲みに行って、もう少し話そう」みたいなことを言えばよかった。

仕事の上で嫌な思いをさせられても、「ハリーの試金石」を思い出して、上司に訴えれば何とかなる。でも「フェミニズムがわからない」という本音を持っている男性がいる限り、本当の意味の平等はない。

フェミニズムは男性にとって脅威的な存在に

残念ながら、彼みたいに考える男性がこれから増えることは間違いない。さっきの「イベントに関する方針」じゃないけど、世界中の企業と政府が差別を是正するために取り組めば取り組むほど、自分が不利な状況に置かれていると感じる男性が増えても仕方ないかもしれない。そうなると、フェミニズムは、男性にとって脅威的な存在になる。この現象はすでに起きている。2020年に行われたイギリスのNPOの調査によると、若い男性の5割は「フェミニズムが行き過ぎたことで男性が成功しにくくなっている」と信じている。

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別の意味でフェミニズムが嫌われている、という面もある。イギリスの場合、フェミニズムへの疑念・嫌悪は階級社会意識と密接に関係していて、歴史的にフェミニズムの発展の恩恵を享受できたのは上流階級の女性たちばかり。中流階級以下の女性たち、黒人女性たち、大英帝国植民地出身の人たちはフェミニズムに取り残されたとしかいいようがない。彼女たちにとって、フェミニズムは上流階級(の女性たち)の特権でしかない。

女性進出が極端に遅れている日本も少しずつ進歩していると信じたい。ところが、進歩すればするほど、イギリスと同様に、次のステージへのステップが難しくなる。表面上の問題を解決すればするほど、深い問題が湧き上がる。女性の社会的地位向上が進めば進むほど、女性を妬む男性も増えるだろう。この先イギリスはどうなっていくだろう。

とにかく、「フェミニズムがよくわからない」彼とはFacebookでまだつながっているけど、話はしない人になった。

鈴木 綾 ロンドンの会社員、エッセイスト

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すずき あや / Aya Suzuki

1988年生まれ。6年間東京で外資企業に勤務し、MBAを取得。現在はロンドンの投資会社に勤務。2017〜2018年までハフポスト・ジャパンに「これでいいの20代」を連載。日常生活の中で感じている幸せ、悩みや違和感について日々エッセイを執筆。日本語で書いているけど、日本人ではない。

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