「日本の牙城」ジャカルタ鉄道に迫る欧州勢の脅威 スイスと合弁の国内メーカー製新車導入が決定

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とくに車両調達に関していえば、インドネシア側は国内調達率4割を主張しており、オールジャパン輸出を掲げる日本側と根本的な食い違いが発生した。この調達率をクリアする方法は、INKAを活用するほかにない。結局、日本側はインドネシアの納得できる代替案を示すことができず、そこにシュタドラーが参入してきたというのが、今回の「縁談」の隠された一面である。

「ジャカルタ首都圏鉄道輸送能力増強事業(I)」は結局5年以上にもわたって塩漬けとなり、予算執行期限も迫る頃、(2)鉄道システム改良として、日本式ATS(ATS-P)の導入を目指すことになった。しかし、ようやく今、事前準備調査が始まったばかりの段階である。一部先行区間だけでも完成するのは、5年、10年先になることが予想される。ATS-P導入も、もともと同様の保安装置を設置していた中古車両が多数存在するという前提条件のもとに成り立っており、SII製の新車が今後増えるのであれば、これを導入する意義も薄れる。

国営企業省、運輸省の方針次第では、この保安装置導入も事前準備調査のみで終わる公算も大きい。とにかく残念なのは、2014年当時に、すぐに日本側がATS-P導入を提案していれば、信号システムの面から、ENの覇権を阻むことができたかもしれないということだ。少なくとも、2015年9月にKCIで205系同士の追突事故が発生しており、それを契機にATSの必要性を訴えることはできたはずだ。日本の対応は周回遅れである。

まだ挽回のチャンスはある

筆者は、日本政府のロビー活動の弱さもさることながら、かつて発展途上国と見られていた国々が急速な経済成長を遂げている中、「政府間援助」「要請主義」を基本とする日本のODAのシステムは限界を迎えていると感じる。もし、仮にKCIに直接、新車導入支援の名目で円借款供与していれば、二つ返事でことは進んでいたはずである。MRTと比較して、どうしてKCIには日本政府が支援してくれないのかという不満は実際よく聞く。

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「ジャカルタ首都圏鉄道輸送能力増強事業(I)」で新車導入に触れられている点についても、ほとんど知られていない。仮にそれができないのであれば、要請主義を廃し、ある程度日本主導で事業を推進できるようにすべきである。いつまでもいい人ぶっている場合ではない。被援助国も自助努力を促されずとも、自ら成長していく時代である。

インドネシアの鉄道は旧宗主国オランダにより建設、運営され、日本の軍政期を経て、1945年9月28日にインドネシアに引き継がれた。しかし、ジャカルタ首都圏に関しては戦後も一貫して日本が近代化支援を続けてきた。1990年代から2000年代初頭にかけてオランダ政府からの資金援助があり、日本からの車両導入が一時的に途絶えることになったが、中古車両輸出という切り札でこれを乗り切った。しかし、この牙城が再び崩されようとしている。

幸いにも、今回のKCI・INKA間の覚書による新車導入は16本とされ、その後のオプションには触れていない。そして、従来のINKAマディウン工場は、現時点ではどの国の手中にも収まっていない。日本にもまだ挽回のチャンスはある。岸田政権の鉄道インフラ輸出に対する本気度はいかほどであろうか。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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