「日本の牙城」ジャカルタ鉄道に迫る欧州勢の脅威 スイスと合弁の国内メーカー製新車導入が決定

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詳細については2020年4月12日付記事「インドネシア唯一の鉄道メーカー『INKA』の実力」をご覧いただきたいが、INKAは2019年1月にシュタドラーとの提携を発表、SIIが設立され、既存のマディウン工場とは別に、ジャワ島最東端の地、バニュワンギに新工場が建設されることになった。土地と建屋をインドネシア側で用意し、シュタドラーが技術や製造設備を提供する。

当時の発表では、あくまでもSIIは輸出向けに注力し、国内向けのマディウン工場との棲み分けを図るとのことだったが、民間メーカーであるシュタドラーが何の見込みもなくインドネシアに投資するとは考えづらく、インドネシアの旺盛な国内需要を狙っていることは明らかだった。

とはいえ、国営インドネシア鉄道(KAI)向けの客車はINKAマディウン製で揺るぎなく、機関車はアメリカGE製、またはGM-EMD製が圧倒的シェアを誇り、当面シュタドラーの出る幕はない。真の狙いは、ジャカルタ首都圏の日本製中古車両約1000両の置き換えと、さらに増備分を加味した合計2000両規模のマーケットだった。

そして、予想通りSIIはジャカルタ首都圏向け12両編成の電車設計に着手。2020年5月、KCIに対しプロポーザルを提示した。当初は2021年に正式契約し、2024年の導入を目指していたが、この丸2年間、何の音沙汰もなく現在に至った。新型コロナウイルスの感染拡大という予期せぬ環境変動があり、KCIや親会社のKAIが大幅な減収減益となり、新型車両どころか、中古車両の導入すらままならなくなったためだ(2024年までのつなぎとして、日本から中古車両を導入する計画自体は存在した)。

KCI側は欧州流車両に猛反発

ただ、理由はそれだけではない。実は、KCIはSIIの提案に猛反発したのだ。というのも、長年、日本製車両の整備に慣れているKCIにとって、180度設計思想の異なるシュタドラー設計の車両は到底受け入れられるものではなかったためだ。

現在のKCIジャカルタ首都圏地区の主力、元JR東日本の205系。円借款で建設された高架線を中古車両が走る姿はジャカルタならではの光景だが、見納めになる可能性がある(筆者撮影)

SIIが提案した車両は、Tc1+M+M+M+T+T’+T+T+M+M+M+Tc2(Tcはモーターなし運転台付き車両、Mはモーター付き車両、Tはモーターなし車両)の12両固定編成、1C4M制御のVVVFインバータ―、主電動機出力200kW、パンタグラフとSIV(補助電源)はTc1、Tc2とT’に設置、外吊り式ドア、アルミ塗装車体というものであった。

ちなみに現在のKCIの主力である205系は、まさにEMU(Electric Multiple Unit)と呼ぶにふさわしく、M+M’を1ユニットとして、一部のMGのないM’にさえ注意すれば、4両から12両まで自由自在の組成が可能である。メンテナンスの都合で、一時的に12両編成を10両や8両、はたまた5両+5両に組み替えて運用している現状において、組成自由度の低い12両固定編成はマッチしない。

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