芸能人の自死関連報道は絶対に見てはいけない訳 臆測混じりの推察は危険、「相談窓口」誘導への疑問

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しかも怖いのは、連鎖が及ぶのがファンだけではないこと。特にファンではなくても、「この人も自分と同じ気持ちだったのかな」などと自分に関連づけて親近感を抱き、後追いしてしまう人がいるのです。たとえば、上島さんに対しても、コロナ禍を原因として決めつけたうえで、「自分も苦しめられているから」と関連づけ、自死を選ぶきっかけにしてしまう危険性は否めません。

その連鎖を避けるためには、まずメディアが最小限の情報を報じるストレートニュースに留めること。人の生死にかかわることだけに、「他社が報じているからウチもいいだろう」という横並びの意識を捨てる姿勢が求められます。

また、関連記事を報じるメディアがあっても、できるだけ見ないようにすることも大事。生死やメンタルヘルスにかかわることは、「できるだけリスクを減らしておく」「対策はやりすぎるくらいでいい」が基本の考え方であり、「自分はありえないこと」と過信しないほうがいいでしょう。

その意味で忘れずに挙げておきたいのが、メディア報道だけでなく、一般の人々が書き込むSNSも同様であること。自死についての是非や背景の憶測などの議論をネット上で交わすことは心を病むリスクを伴うものであり、避けたいところです。

免罪符として添えられる「相談窓口」

最後にもう1つメディアの報道姿勢に疑問を呈しておきたいのが、「相談窓口」の添付という免罪符。

媒体を問わず自死関連の報道には、最後に「いのちの電話」「こころの健康相談」「生きづらびっと」などの連絡先を添えることがお決まりのようになっています。

しかし、当然「これを添えれば、どんな内容でも許される」というわけではなく、そもそも相談窓口は「悩みが解決できる」という前提のものではありません。精神状態には個人差があり、たとえば相談員に心を開いて悩みを打ち明けられるかは未知数です。一方、全国に数千人とも1万人以上とも言われる相談員も、全力で対応しているものの、対処能力に個人差や相性があり、必ずしも万能とは言えないでしょう。

さらに連絡がつながらなければ、「ここも私を見捨てるのか」と絶望してしまうリスクもあるだけに、「自死報道でショックや悲しさを増したうえで、相談窓口に誘導する」という現在の流れは看過できないのです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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