芸人の「本音トーク」を受け止めた視聴者の変化 事前打ち合わせがない『あちこちオードリー』

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MCの海原やすよ ともこは、伝統ある大阪・なんばグランド花月でトリを務める実力派漫才師である。実の姉妹でもある彼女たちは、舞台に立つかたわら、関西では多くのレギュラー番組に出演している。

『やすとものいたって真剣です』の魅力は、『アメトーーク!』や『あちこちオードリー』のような「ディープなお笑い談義」を楽しめるうえに、男性芸人がMCを務める一般的なトーク番組とは一味違う温かい雰囲気があることだ。

彼女たちは漫才師としてもタレントとしても十分な実績があり、ゲストの芸人と深く掘り下げた話をすることができる。芸人側も「あの『やすとも』さんが相手なら」と、心を開いて話をしてくれる。でも、どんなに真剣な話をしてもピリッとした空気になることがなく、どこか穏やかな時間が流れている。

たとえ親しい芸人がゲストとして出ていても、ベタベタした馴れ合いムードに陥って視聴者を置き去りにすることがない。一方、親しくない他事務所の芸人などがゲストのときには、彼女たちは落ち着いたたたずまいでしっかりと話を聞いてくれる。

お笑いがブームの枠を超えて世間に浸透

『あちこちオードリー』や『やすとものいたって真剣です』のような、芸人が真剣に笑いについて語る番組が増えているのは、お笑いがもはやブームのレベルを超えて、世間に広く浸透したからだ。

お笑いの楽しみ方も階層が分かれていて、より深く楽しみたい人向けに、こういうものが発信される時代になった。いわば、市場全体が盛り上がってきたからこそ、深い知識を求める層に向けたコンテンツも充実してきているのだ。

もちろん、テレビ番組として放送されているのは、ディープな世界のほんの上澄みの部分に過ぎない。それでも、そこには独特の面白さがあり、魅力がある。芸人が肩ひじ張らずに本音を話せるトーク番組はこれからも増えていくだろう。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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