「警察裏金」実名告発の幹部が私に教えてくれた事 組織不正を前にどう動くか、原田宏二氏逝く
「私はこの問題が出てから、(道警)本部長が議会で質問に顔をそむける姿をテレビで見て正視できませんでした。総務部長はかつて、ともに仕事をした仲間ですが、立場上、彼が世間の常識では通用しない答弁をしているのを聞き、気の毒で、先輩として申し訳なく思いました」
「かつて、こうした問題を内部に抱えながらも、道警では毎年重点目標を決めていました。その基本は『道民の期待と信頼に応える』ことにありました。しかし、現在は空々しいものに感じます。4月には、新人が警察学校の門をくぐります。時代は変わっても警察官を志す若者は『社会正義のため』と希望に燃えていることでしょう。かつて、私もそうでしたように。しかし、38年の間に手を汚してしまいました」
「過去にこうした行為が組織的に行われていたのは事実で、それが今回明るみに出た以上、私たちOBと現職幹部は事実を認め、道民に謝罪しなければならないでしょう。組織に人格はありませんが、構成員あるいは構成員であったわれわれにはあります。私に続いてくれる人が1人でも多いことを願っています」
原田氏はこの会見やその後の道議会で、自らも裏金の差配に関与し、裏金からヤミ給与を受け取っていたことなどにも言及した。そして、内部調査に着手するとした道警の上層部たち、つまり後輩幹部に向かって、「そんな必要はないだろう。組織の構成員に改めて聞くまでもなく、裏金の実態は幹部全員が知っている事実じゃないか」と語りかけたのである。
「報道でヒーロー扱いしないでほしい」
ただし、原田氏が実名で裏金を告発したのは、現職時代のことではない。警察改革の必要性を感じつつも、現職時代にはついぞ組織内部できちんとした形で問題提起できなかった。
「おれも裏金をもらっていた人間だよ。内部告発はしたが、正義の味方じゃない。報道でヒーロー扱いしないでほしい」「なぜ告発したかと言えば、信頼回復へ向けた道警の最後のチャンスと思ったからだ。ここで建て直さないと、警察は法の遵守なき、倫理観なき組織に転落してしまう。その危機感があった」
原田氏はそんな内容も語り続けていた。
階級社会の警察組織は、上意下達の規律を何よりも重んじている。完全な縦社会、完全な官僚組織だ。結束は強固で、組織内に不正・不祥事・不作為があったとしても、(末端警察官の破廉恥行為などを除けば)めったに表に出ない。
全国で約29万人いる警察官のうち、原田氏の最終階級だった「警視長」は上から3番目。警視長以上の者は、全国に0.1%あまりしかいない。それほどの大物でありながら、なぜ、在職中に裏金根絶に動けなかったのか。
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