天皇は、なぜ「満州事変」に言及したのか

「日本のリベラリズムの危機」を考える<1>

したがって、天皇が発した一見穏当な言葉は、歴史編纂の領域に大きく影響を及ぼすものであり、日本の侵略、そして安倍首相のような現代の歴史修正主義者を批判する彼の立場を浮き彫りにしている。歴史修正主義者は、戦時中の日本を復活させ、日本の価値を高め、自国を正当化する歴史観を主張しようとしている。

天皇の歴史観は、日本(そして他国)におけるコンセンサスとして長らく大勢を占めている考え方と一致するものだ。しかし、歴史修正主義者は、日本だけを批難するこの「マゾヒスティック」な歴史観に苛立ち、戦争を遂行した戦前・戦中の政治指導者を過大評価している。歴史修正主義者は、大勢のコンセンサスが極東国際軍事裁判(以下「極東裁判」という)の判決に基づいており、「戦勝国の正義」に立った歴史観によって歪められたものだと主張する。

たしかに極東裁判における司法手続きは実際に多くの問題を含んだものであり、有罪判決は予め決められていた。しかし、だからといって日本の軍部、すなわちA級戦犯と呼ばれる計画者たちが無罪だとはいえない。歴史修正主義者は、ラダ・ビノード・パールによる反対意見を日本の戦争責任を免れるための見解としてしばしば引用するが、現実にはパールはそのような意見は述べていない。彼の顕彰碑は靖国神社に隣接する遊就館にあるが、遊就館は日本の侵略に対する肯定的な歴史観を守る本拠地のような場所だ。

パールは、国際法における法的地位を欠き、根拠なく法の遡及適用を認めたという観点から極東裁判の判決を批判したが、日本による戦争犯罪があったことは認めており、同盟国が日本と共に判決を受けなかったことを批難し、それら同盟国にも責任を追求すべきだと指摘した。

極東裁判の判決は、確かに重大な不備を孕んでいたが、米国の占領を終わらせ、他の調印国と共に平和を築くために日本が調印したサンフランシスコ講和条約の本質に関係している。同条約の調印を以って日本は極東裁判の判決を受け入れたのだ。安倍首相は「戦後レジーム」からの脱却についてしばしば語るが、日本人の多くは戦後の体制を誇りに思っている。安倍首相は戦時中の日本に対する自虐史観と米国によって作成された憲法に不満を感じている。この2つはどちらも、戦後秩序の重大要素であり、日本に恥辱を与え、従属国としての日本の位置づけを維持するためのものだと安倍首相は考えているのだ。

多くの日本人は憲法9条改正に反対している

安倍首相とは対照的に、天皇や大半の真摯な日本人は、20世紀後半における日本の模範的ともいえる功績が、償いを実行し、国家の尊厳を取り戻すための指針として役立つものだったと感じている。安倍首相は現行の平和憲法を批判するが、実際には、日本のアイデンティティの基準を担保するものとしてこの憲法を捉え誇りに感じている日本人も多い。第9条の改正への安倍首相の取り組みが不興を買うのはこのためだ。

集団的自衛権を認めるための第9条の再解釈を支持する日本人は極めて少数である。というのも多くの日本人は、集団的自衛権を認めることによって、米国政府が日本を戦争に引きずり込むことを懸念しており、見直しが行われた「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」がこの可能性を高めるものであることを理解しているからだ。

日米両政府がガイドラインの正式採択に至っていないのはまさにこのためであり、ガイドラインの採択が、選挙において自民党の不利に働くことを避ける意味もあったのである。

(構成:ピーター・エニス記者)

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