新科目「歴史総合」が伸ばす、子の「問いかける力」 これまでの「日本史」「世界史」学習とどう違う?

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また、歴史上の人物、偉人の考え方や姿勢に触れることも私たちの人生を豊かにしてくれる。

例えば幕藩体制が崩壊する難局で手腕を発揮した勝海舟は「人間いい時も悪い時もある。ただそれは10年も続かないから寝転んで待っていろ」と言った。

さすがに「10年」は待てないが、「何をやってもダメなんだから寝て待っていろ」というメッセージはピンチな時にいつも私を勇気づけてくれる。

土佐藩の貧しい地下浪人の家柄から三菱財閥を築き上げた岩崎弥太郎は「人間には必ず一生に一度、最大のビッグチャンスが訪れる。ただ多くの人はそれをつかめずに逃してしまう。それは、勇気がないからだ」と言っている。

歴史学習が子どもに与える好影響

都立高校の教師だった私が初めてテレビ局からオファーを受け(『世界一受けたい授業』日本テレビ)出演を決意できたのもの弥太郎の生き方と考えが背中を押してくれたから。今日の私があるのも、この言葉のおかげだと言える。

そもそも歴史に名を残す偉人は多くの偉人伝を読んでいる。

高杉晋作や伊藤博文、山縣有朋など明治維新の礎を作った人物を多く輩出する松下村塾を開いた吉田松陰は、門弟たちを「友」と呼び、共に学び、討論することを重視した。まさに現代に求められるアクティブラーニングの実践者であり、私が尊敬する偉人の一人だが、彼は、過去の偉人のことを門弟と同様に「友」と呼んで、偉人から多くのことを学んだ。そして門弟たちにも歴史を学べと力説している。

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また、近代日本経済の父とも言われる渋沢栄一も、子ども時代は偉人伝ばかり読み漁っていたと言われている。彼もやはり自身の自伝で「偉人が友達のように思えてきた」と語り、過去の偉人から多くのことを学んだ一人だ。

岩崎弥太郎も『三国志』に傾倒し、将来、英雄になると豪語していた。子ども時代に偉人の言動を学ぶことで自尊心が培われるのだ。

偉人たちの行動や言動は、生きる糧になったり人生の岐路や危機に立ったときに背中を押してくれたりするものでもある。

生徒自ら「問い」を立て、深掘りしていく新科目「歴史総合」の授業が、偉人の思考や行動に出会えるきっかけになり、これから歴史を作っていく多くの子どもたちに「生きる勇気」や「人生の判断軸」を与えるものになってくれることを心より願っている。

河合 敦 歴史研究家

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かわい あつし / Atsushi Kawai

歴史作家、多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。1965年、東京都生まれ。青山学院大学文学部史学科卒業。早稲田大学大学院博士課程単位取得満期退学。歴史書籍の執筆・監修のほか講演やテレビ出演も精力的にこなし、わかりやすく記憶に残る解説で熱く支持されている。著書に『日本史は逆から学べ』(光文社知恵の森文庫)、『歴史の勝者にはウラがある』(PHP文庫)、 『禁断の江戸史』(扶桑社新書)などがある。

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