出世から性愛まで「古代中国人」の驚きの日常生活 「キングダム」が100倍面白くなる研究の最前線

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――木簡・竹簡からは、当時のビジネスパーソンの実態がわかってきました。

中小官吏の日記や、万里の長城の勤務シフト表など、最近は面白い史料が相次いで発掘されている。

こうした史料からわかったのは、当時の中・下級の役人は基本的に非常勤のアルバイトで、上流貴族になってはじめて常勤になる、ということ。

役人は基本的に地元で就職することが禁じられており、出身地以外に派遣される。コネによる不正を防ぐためだ。転勤族として地方で業績をあげれば、中央政府に行くことができる。その後、もう一度地方に赴任して、中央のトップに上り詰めることができる。これは、現代のビジネスパーソンの共感を呼ぶところだろう。

ニオイや音にも注目

ーー目に見えるものだけでなく、ニオイや音にも注目しています。

自分が古代中国にワープしたら、と想像したときに、どんな音が耳に入るんだろう、と気になった。調べてみたら、恋の歌の中に「恋人と別れてむしゃくしゃして、ハエの音が気になって眠れない」と書いてある。ということは、当時はハエが飛んでいた。さらに、蚊帳があるので蚊も飛んでいた。家には豚や鶏を飼っていたので、「ブーン、ブヒブヒ、コケコッコー」は日常的に耳に入る音。

ニオイに関しても、口臭対策の薬品があったことから、当時の人は「口が臭いことを気にしていたんだ」とわかった。

かきぬま・ようへい/1980年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。University of Birminghamに留学。早稲田大学大学院文学研究科に進学し、2009年に博士(文学)学位取得。早稲田大学助教、帝京大学専任講師、同准教授などを経て、早稲田大学文学学術院教授・長江流域文化研究所所長。専門は中国古代史・経済史・貨幣史。著書に『中国古代の貨幣』(吉川弘文館、2015年)など多数。(撮影:尾形文繁)

――日常史を描く上で、皇帝、貴族、庶民などと社会階層を細かく分けていないのには意図がありますか。

歴史研究において、人々の階層性や差別の問題はこれまで存分に検討されてきた。それよりも、皇帝から民衆までの日常的な「生」のあり方をすくい取ることに注目した。

今回の研究を通じて、僕の頭の中では古代中国の日常生活が3Dで見えるようになっている。これからは、ここで人を動かしていきたい。次回作はもう決まっていて、秦漢時代の裏社会、やくざについて研究していく予定だ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界、総合電機業界などの担当記者、「東洋経済オンライン」編集部などを経て、現在は『週刊東洋経済』の巻頭特集を担当。過去に手がけた特集に「半導体 止まらぬ熱狂」「女性を伸ばす会社 潰す会社」「製薬 サバイバル」などがある。私生活では平安時代の歴史が好き。1児の親。

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