「母親が殴られる」中3で逃げた少年に残った葛藤 感情を押し殺し続けた経験に今も苦しむ

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「人に迷惑をかけるな」は、この国の親たちが子育てにおいて頻繁に口にする言葉だが、亮太さんは自分が子育てをするようになったいま、その言葉を受けて育つ弊害を改めて考えている。

「母は子どもだった僕たちより2、30年先を生きていて、その視点で自分や弟にいろいろ言っていたんですけれど。でも当時僕たちは、まだ14、5年しか生きていなくて、そんな先の視点で何か言われてもピンとこなかった。知りたいのは『今どうすればいいか』とか『高校受験をどうすればいいか』という、ちょっと先のことだけ。『見ている時間の流れが全然違ったな』ということも感じています」

本当にチャレンジしたかったこと

話のなかで、亮太さんは「失敗を怖れてチャレンジできなかった」ということを、繰り返し口にしていた。もしかして、何かよほどやりたいことがあったのでは? そう尋ねると、一瞬ためらった後、こう答えた。

「恥ずかしいんですけれど、お笑い芸人になりたいと思っていたんです。大学は、授業料が免除になる国立を1校だけ受けたんですが、もし落ちたらそっちの道に進もうと思っていました。結局受かったので、行くことはなかったんですけれど。その後も、何か節目のたびに『やっぱりやってみようかな』というのが、ずっとあるんです。

もう娘もいるので、ますます現実的じゃなくなっていて、できないと思っているんですけれど。でも『やっていたら、どうなんだろう』というのは考えてしまう。まだ整理がついていなくて、ずっとモヤモヤしているのかもしれないですね」

やはりそうだったのか。まだ20代なんだから、本当は今もチャレンジしてみたいし、誰かに背中を押してほしいのだろう。そう思いながら、黙って聞いた。

そんな思いがあるからこそ、自分の子どもは、失敗を怖れず何にでも挑戦できるように育ててやりたい。そう考える亮太さんは、もう、いいお父さんでもあるのだった。

本連載では、いろいろな形の家族や環境で育った子どもの立場の方のお話をお待ちしております。周囲から「かわいそう」または「幸せそう」と思われていたけれど、実際は異なる思いを抱いていたという方。おおまかな内容を、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 ノンフィクションライター

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おおつか れいこ / Reiko Otsuka

主なテーマは「いろんな形の家族」と「PTA(学校と保護者)」。著書は当連載「おとなたちには、わからない。」を元にまとめた『ルポ 定形外家族』(SB新書)のほか、『PTAでもPTAでなくてもいいんだけど、保護者と学校がこれから何をしたらいいか考えた』(教育開発研究所)『さよなら、理不尽PTA!』(辰巳出版)『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)『PTAをけっこうラクにたのしくする本』(同)など。テレビ、ラジオ出演、講演多数。HP

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