「母親が殴られる」中3で逃げた少年に残った葛藤 感情を押し殺し続けた経験に今も苦しむ

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ある日、母親がついに顔を殴られた。それまでは、衣服で隠れて見えない部分をやられていたが、このときは顔に痣ができ、ついに隠すことができなくなった。

「母はそれまでも男女共同参画センターに相談に行っていて。たしか殴られたのが金曜で、翌日の土曜に相談に行ったら、『もう荷物をまとめて逃げてください』という話になったらしく。その日は自分と弟だけが家にいて、母がバタバタと帰ってきて『いまから荷物まとめて出るよ』と言われて、保護施設みたいなところに避難した記憶があります」

亮太さんは中学3年生で、このとき高校の推薦入試の結果待ちだった。もし落ちた場合は一般入試を受け直さなければならなかったため、大量の勉強道具を持って家を出たことをよく覚えている。保護施設にいる間は学校にも通えなかったが、母親が担任から「合格」の知らせを受け、伝えてくれた。

しばらくして、亮太さんたちは自宅へ戻った。このとき男性がどこにいたのかはわからないが、裁判所から接近禁止命令が出ていたため、亮太さんたちの前に姿を現すことはなかった。

まもなく、3人は身の安全を確保するため、再び住まいを変えた。その後、車に取り付けられたGPS機能付き携帯が見つかったので、もしかすると引っ越し先も知られていたのかもしれない。亮太さんは、男が乗っていたのと同じ車種の車を見るたび、ナンバープレートを確認するのが癖になった。だがその後も幸い、ストーキング被害は生じていない。

「生きるのが、なんか下手だな」

「人を信じられない、甘えられない、頼れない。人に何かを頼もうと思っても、もし相手がイライラするんだったら自分でやるほうがいいと思って、それで自分がイライラしてしまう(苦笑)。人との距離感を推し量るのも、生きるのも、なんか下手だな、というのはよく思います」

こういった傾向は、自分の成育歴のせいなのか、もともとの性格のせいなのか。両方あるのかもしれない、と最近は感じている。

「あとは、母からよく『人に迷惑をかけてはいけないよ』と言われていたせいもあるかもしれません。子どものときって、いろいろ失敗しながら学んでいく時期だと思うんですけれど、失敗する前にそれを封じられてきたようなところがあって」

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